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鼻の整形についての悩み



お昼ご飯がすんで、ちょうど眠気がやってくるころだった。

満腹感が波のように押し寄せてきて、頭がふわっと重い。

コーヒーで眠気を追い払おうとカップを用意していたら、電話が鳴った。


若い――たぶん高校生くらいの女の子の声だった。

少しだけ尖っていて、でもどこか心細さを含んだ声音。


「最近って、ビジュアルがすべてじゃないですか」


僕が名乗る前に、勢いこんで話し始めた。


「私、鼻が団子鼻で、しかも上向いちゃってるんです」


はい、お話し続けてください。お聞きしています――

事務口調が、条件反射みたいに勝手に口から出る。


「それで、父に相談したんです。鼻、整形したいって」


そこで一度息を吸い、彼女は言葉を選ぶように続けた。


「そしたら父が言いました。

鼻がクレオパトラになったとして、目や口はクレオパトラを受け入れるかな?

仲間外れにならないか? って」


なるほど、お父さん強いな。

想像したら少し笑ってしまいそうになるが、笑ってはいけない。


「だから言い返したんです」

「『じゃあ、目も口も整形したらいいでしょ』 って」


電話口の向こうで、少し照れたような笑い声がこぼれた。

強がりと、甘えと、迷いが混ざった音。


「そしたら父が言いました」

「『全部変わったら寂しくないか。自分じゃなくなるぞ』って」


少し沈黙。

その沈黙は重くなく、ただ考え事をしているときの静けさだった。


そして彼女はさらに静かな声で言った。


「顔にも流行がある。いつか団子鼻が一番モテる時代が来るかもしれん。

そのときまた『団子鼻に戻してください』って言うのか?って」


彼女は小さくため息をついた。

ため息というより、胸の奥に溜まっていた空気を手放した感じ。


「……そういうことを、真顔で言うんです。うちの父」


鼻息の荒さが、受話器越しにも伝わってくる。

怒っているというより、「どうしていいかわからない」揺れのほうが強い。


僕は思った。

――あっ、全部解決している。


「お父さんは、とてもあなたを大切に思っておられるんですね。

今のお話だけで、それがよく伝わりました」


少しだけ、声が揺れた。


「はい。……そうかもしれません」


ほんの少し、涙に触れた音がした。


「早まらずに、まだ成長の途中です。二十歳を過ぎてから考えても遅くありません。

それに、メイクで雰囲気はずいぶん変わります。動画もたくさんありますし、試してみてはどうでしょう」


言ってから、余計だったかな、と一瞬思う。

でも、彼女は明るい声で答えた。


「わかりました。よく考えてみます」


通話が切れた。


静かになった部屋で、コーヒーを口に運ぶ。

表面に映る蛍光灯の光が、細かく揺れる。


――世界のほうが整形すればいいのに。

「多種多様整形」。


団子鼻が普通で、

上向きの鼻が主役で、

誰も「比べない」顔の世の中に。


鏡代わりにカップの底に映る自分の鼻は、

まあ、どうでもいい形をしていた。


コーヒーは、少しだけぬるくなっていた。

胸の奥で、小さな青いボールが、ころん、と転がった。




【整形希望女子:追記】


鏡をよ――く見ると、鼻じゃない気がする。輪郭だわ。


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