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そして世界はつながる



目を覚ますと、見慣れた天井があった。

白くて、少し黄ばんでいて、端に小さな染みがある。

異世界の王宮の天井は、もっと高く、立派だったはずなのに。


優斗はしばらく瞬きを繰り返してから、ゆっくりと息を吐いた。


(戻ってきた)


夢だったのか。そう思おうとすればできた。

けれど、胸の奥に残る重さが、それを許さなかった。


スマートフォンが鳴る。業務用の着信だ。 優斗は一瞬だけ目を閉じ、それから出た。


「はい、総合相談・苦情窓口です」


「目玉焼きが、うまくできないんです」


帰ってきて、最初の苦情だった。


「黄身が割れるんですよ。毎回。フライパンに入れた瞬間に」


「……火加減は、どうされていますか」


「普通です。普通にやってます」


異世界では、ドラゴンと向き合った。 民の飢えをどうするか、王の無茶をどうかわすか、命がかかった判断もした。 それなのに。


「火を、少し弱めてみてください」


「それじゃ焼けないでしょう」


「……焼けますよ」


「卵を茶碗に割ってからフライパンに入れてみてください」


沈黙。


それから、小さな舌打ち。


「まあ、やってみますけど」


通話は切れた。 優斗は、以前の自分なら謝っていたことを思い出す。

今は、言わなかった。


昼前、


次の電話。


「カラスに攻撃されました」


「……怪我は」


「してませんけど!ベランダに出ただけで威嚇するんです!」


カラス。

黒くて、賢くて、しつこい。


「ゴミ袋は、出していましたか」


「出してましたよ!ちゃんとネットもかけて!」


「カラスは、人を覚えます」


「は?」


「目を合わせると、敵だと思われます」


「そんなの、聞いてませんよ」


優斗は、静かに息を吸う。


ドラゴンも、同じだった。


理由があった。事情があった。


説明しても、納得しない者がいることも、知っている。


「帽子をかぶってください。目を合わせないでください」


「……それで、来なくなるんですか」


「来るかもしれません」


正直に言った。


「なんですか?それ」


「それでも、被害は減ります」


通話は、不機嫌な音を立てて終わった。



夕方。



机に突っ伏しそうになりながら、優斗はコーヒーを飲む。


ふと、引き出しの奥に、見覚えのない小さな袋があるのに気づいた。


開けると、飴玉が一つ。


――カレンだ。


何も言わずに置いていく。


異世界でも、帰ってきてからも、その不器用さは変わらない。



最後の電話。


「目玉焼きの件なんですけど」


同じ人だ。


「やっぱり、うまくいかない」 「……そうですか」


優斗は、少しだけ考えた。


「それでも」


「え?」


「それでも、食べられます」


沈黙。


「……そうですね」


通話は切れた。


仕事を終え、帰宅すると、机の上に弁当が置いてあった。 蓋を開ける。

少し焦げた目玉焼き。黄身は、端が割れている。


優斗は、笑った。


完璧じゃない。でも、食べられる。 異世界でも、現実でも、苦情はなくならない。

世界は、相変わらず理不尽だ。


それでも。


逃げなかった。


箸を取る。 「いただきます」


外で、カラスが鳴いた。それでも、今日は少しだけ、静かだった。



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