えええええ――――!!
着いてしまった。
サイバーニの森に……。
足を踏み入れた瞬間、空気が明らかに違っていた。
湿っていて、ぬるくて、肌にまとわりつくような気配。
遠くの地面で、薄い水色なのか、それとも灰色なのか――
はっきりしない色の塊が、ぷよぷよと蠢いている。
数は……多い。
想像していたより、ずっと。
「……ヤダ。気持ち悪い」
カレンが、珍しく身震いした。
腕をさすり、露骨に顔をしかめる。
「さっさとやってしまいましょうよ」
「こんなところ、長居したくないわ」
優斗は、喉がひりつくのを感じた。
はぷんてを使う――
その選択肢が、重くのしかかる。
「ねぇ、カレン……」
「一匹ずつ、倒していかない?」
言った瞬間、自分でも無理だと分かっていた。
「あんた、ほんとに頭悪すぎ」
カレンは吐き捨てる。
「この数よ?」
「それに、私たちで倒せるなら、とっくに王国がやってるわ」
「でも……さっきは、うまくいったじゃない」
優斗は、視線を森に向けたまま、小さく首を横に振る。
「今回は……森だよ」
「規模が違う。自信ない」
「でも、やらなきゃ打ち首よ?」
カレンは、少し考えるように、指先で自分の髪をいじった。
「最悪さ、『チャレンジしました』って言えば、なんとかならない?」
その軽さが、逆に現実を突きつけてくる。
優斗の唇が、震えた。
「……スライムって、弱い?」
「ゲームなら一番弱いわよ」
「スキル上げ用。雑魚中の雑魚」
「……あんた、びびってんの?」
「アタシ、こんなとこで死にたくないんだけど」
カレンは、今度は指で木の幹を弾いた。
乾いた音が、森に吸い込まれる。
「……そうだね」
「やるしか、ないよね」
優斗は、諦めたように息を吸った。
(派手な詠唱のほうが、効くんだろうか)
(森全体なら……数も多い)
考えれば考えるほど、正解が分からなくなる。
それでも――立ち止まる選択肢はなかった。
優斗は、意を決したように前へ出た。
仁王立ちになり、両手を大きく広げる。
腕が、はっきりと震えている。
――カレンを打倒するために、
――夜な夜な頭の中で考えていた詠唱。
「スライムたちよ、我が言葉をとくと聞け」
「ここはお前たちの住む場所にあらず」
「暗黒の地へ戻れ」
「闇の業火とともに、永久に――」
「はぷんっ、ぅぇ……」
言葉が、絡まった。
(あ、ヤバい)
胸が、ひやりと冷える。
……何も起きない。
風が、木々を揺らすだけ。
数分が過ぎた。
(……よかった)
安堵した、その瞬間――
ゴゴ……
ゴゴゴゴゴゴ……。
足元が、持ち上がった。
轟音。
地面が割れ、視界がひっくり返る。
――――
目を覚ました瞬間、優斗は、言葉を失った。
スライムごと、森が焼けていた。
黒く焦げた大地。
草一本、木一本、残っていない。
さっきまで蠢いていた影も、跡形もなかった。
「ええええええええええええええ――――!!!!!!!!!」
叫び声だけが、焼け跡に虚しく響いた。
(……また、やった)
胸の奥が、ずしりと重く沈んだ。
これは、成功なのか。
それとも――取り返しのつかない失敗なのか。
誰も、答えてくれなかった。




