表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/61

トゲの男の子



「とりあえず、サイバーニの森に行ってみよう」


口に出してはみたものの、優斗の胸の奥には、不安しかなかった。


自分で言った言葉なのに、まるで他人事のように聞こえる。


浮かない顔のまま、優斗はとぼとぼと歩く。


隣ではカレンが、道端の小石を見つけては、つま先で蹴り飛ばしていた。


赤茶けた土の道を、いくつも曲がる。

進むほどに木々が増え、空が細く切り取られていく。


森が近づくにつれ、胸の奥が、じわじわと重く沈んでいった。


そのとき――

前方の草道で、人が集まっているのが見えた。


近づくと、小さな男の子が泣いている。


右手の人差し指に、細いトゲが深く刺さっていた。

大人たちが囲み、引っ張ったり、息を吹きかけたりしているが、

どうやら抜けないらしい。


「人がこんなにいるんだから、そのうち誰かが何とかするでしょ」


カレンは、立ち止まることなく言った。


そのまま通り過ぎようとする背中を見て、優斗は足を止めた。


(大人たちが抜けないなら、僕にできるはずがない)


(でも……このまま行っていいのか?)


はぷんての魔石が、懐の中で重く感じられる。


(もし魔法が暴走して、トゲだけじゃなく、指まで吹き飛んだら……)


想像しただけで、背中に冷たいものが走った。


(やめよう。トゲなら、時間がたてば取れる)


そう自分に言い聞かせた、その瞬間。


男の子が、優斗のほうを見て、声を張り上げて泣き出した。


まるで迷いを見抜かれたかのようだった。


「そんなに迷うならさ」


カレンが、また石を蹴りながら言う。


「はぷんて、使ってみれば?」


「最悪、あんたに災いが降りかかるようにすればいいじゃん」


軽い口調なのに、逃げ道を塞ぐ言葉だった。


(通り過ぎられないのも、僕の役目なんだな)


胸の奥が、ぎゅっと縮む。


優斗は、鈍色の箱を取り出した。


指先が震える。

魔石を落としそうになるのを、必死でこらえる。


「お願いします……

 はぷんての魔石様」


「あの男の子の指のトゲを、抜いてください」


「最悪、僕が災いを受けます」


――はぷんて……


かすかに、

かすれるような声が響いた。


……何も起きない。


風が木々を揺らし、葉擦れの音だけが流れる。


失敗した、そう思った次の瞬間。


男の子が、自分の指を見つめて、きょとんとした顔をした。


そして、すっと泣き止み、そのまま駆け出した。


指には、トゲはなかった。


周囲の大人たちも、「あれ?」と首をかしげながら、何事もなかったように散っていく。


奇跡的に。はぷんてが、きちんとうまくいった。


優斗は、その場にへたりこんだ。


足に力が入らない。


「やればできるじゃん」


カレンが、つまらなそうに言う。


「トゲ抜き限定だけど」


そう言って、また石を蹴った。


優斗は、地面に座ったまま、空を見上げた。


胸の奥に残ったのは、安堵と、ほんの少しの怖さだった。


(……次も、うまくいくとは限らない)


それでも、通り過ぎなかったことだけは、間違っていなかったと、そう思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ