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店主がすねまくる



店主が、じっとこちらを見ていた。


のほほんとした顔。

――だが、目だけが笑っていない。


「……ねぇ」


嫌な予感がした。


「ゴブリンと踊ったならさ」


一拍。


「我々とも、踊ってくれないと」


さらに一拍。


「不公平じゃないかい?」


カレンは、ゆっくり振り返った。


「……は?」


店主は、本気で拗ねていた。


「だってそうだろう?」

「ゴブリンだけ特別扱い」

「店としては、寂しいよねぇ」


「店、関係ないでしょ」


「関係あるさぁ」

「噂は、広がるからねぇ」


優斗が、嫌な予感のど真ん中に立っていた。


「えっと……」

「踊り、って」


店主は、にこっと笑う。


「なんでもいいよ」

「派手に踊って」


即答だった。


(えっと……)

(フォークダンスくらいしか思いつかない)


カレンは少し考えて、

口に出した瞬間、舌打ちした。


「……フォークダンス、とか」


「いいねぇ」

「じゃあ、ふたりで踊って見せてよ」

「我々、知らないからさ」


「誰と?」

カレンが聞く。


「優斗くんと」


「は?」


優斗が固まる。


「え」


「え?」


三方向から、同時に声が出た。


「いや、待ってください」

優斗が慌てる。


「僕、踊ったこと――」


「大丈夫」

店主は肩を叩く。


「簡単だよ」

「手を取って、回るだけ」


「知ってるじゃないですか!」


カレンは、頭を抱えた。


「……なんでこうなるの」


「公平だから」

店主は真顔だ。


「苦情係として、ね」


その一言で、逃げ道が消えた。


「……優斗」


「はい」


「後で文句言っていい?」


「……うーん」


二人は、渋々向かい合った。


ぎこちない距離。

近い。

思ったより、近い。


「……近くない?」

カレンが小声で言う。


「……うん、そうかも」

優斗も小声で返す。


店主が、手を叩いた。


「じゃあ、いくよー」


音楽はない。


でも。


誰かが、足を踏み鳴らした。


トン。


次に、

トン、トン。


自然と、リズムが生まれる。


「手」

店主が言う。


優斗が、おずおずと手を出す。


カレンは、一瞬だけ迷って――


取った。


「……離すの禁止だからね」


「は、うん」


一歩。

回る。

二歩。

戻る。


驚くほど、簡単だった。


「……できてる?」

カレンが聞く。


「……できてる気がする」

優斗が答える。


その周りで、人が増える。


店主。

ゴブリン隊長。

旅人。

職人。


誰かが言った。


「輪、作ろうぜ」


気づけば、手と手が繋がっていた。


人間も。

ゴブリンも。


ぎこちなくて、揃っていなくて。


でも、誰も文句を言わない。


「……これ」

カレンが息を切らして言う。


「苦情、減る?」


優斗は、少し考えてから答えた。


「……たぶん」

「どうかな、増えるかも」


「最悪」


それでも。


笑っている人が、確かにいた。


店主は、満足そうに言う。


「いいねぇ」

「国っぽい」


「どういう意味よ」


「違うものが混ざって、文句言いながら、それでも回ってる」


「それが、国さぁ」


輪は、ゆっくり回り続ける。


苦情と好意と、照れと不満を全部混ぜて。


その日、この店の噂は、また少しだけ形を変えた。


――「踊る店がある」と。


そして。


カレンは、確信していた。


(これ、絶対また呼び出される)


優斗も、同時に思っていた。


(……でも、悪くない)


輪は、もう一周、回った。目も、回った。


異世界で盆踊りとフォークダンス。

――何をやっているんだろう。


その考えは、そっと心の奥に封印した。




【カレン:追記】


店主近寄りすぎ、ゴブリン手が毛深い、優斗の手温かかった。

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