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ゴブリン隊長の苦情



ガルーラダンジョンから戻ってきたが……。

どうも様子がへんだ。

気のせいか?


ゴブリン隊長がやってきたのは、少し空気が緩んだ頃だった。


背が低く、筋肉質。

兜は被っていない。

その代わり、やけに胸を張っている。


「……ココか」


声は低いが、どこか拗ねている。


「はい」

優斗が答える。


隊長は腕を組んだ。


「ココロ キズ ツイタ」


いきなりだった。


カレンが眉をひそめる。


「は?」


「ミンナ、カレンさまがスキ」

隊長は真顔で言う。


「ナノに、ツメタイ」


間。


「……気持ち悪いんだけど」

カレンは反射的に言った。

「距離感を守りなさい」


隊長の肩が、目に見えて落ちる。


「ホラ」

「ソウやって」

「キラワレ テイル」


優斗が慌てて割って入る。


「えっと……」

「嫌っているわけじゃなくて」


「お世話になってますよね」

「ゴブリンの皆さんには」


隊長が顔を上げる。


「セワ、した」

「タベモノ、ハコンだ」

「ヨル、ミハッタ」


「ですよね」

優斗はうなずいた。


「だから……」

「もう少し、優しくしてもいいんじゃないかな、って」


その瞬間。


「は?」


カレンの声が鋭くなる。


「何それ」

「義理で好意を受け取れって?」


「いや、そうじゃ……」


「じゃあ何」

カレンは隊長を見る。


「どうすれば満足なのよ」


一拍。


「踊りでもしたら、気が済むわけ?」


口をついて出た言葉だった。

言った瞬間、自分でも「しまった」と思う。


……が。


隊長の目が輝いた。


「ソレ」


「は?」


「オドリ」

「トテモ、イイ」

「ミンナ、ヨロコブ」


優斗が固まる。


「え」


隊長はうなずいた。


「オドリ」

「ミンナ、スキ」


「え、ちょっと待って」

カレンが後ずさる。


「誰が踊るって?」


隊長は、まっすぐ指さした。


「カレン」


沈黙。


風が吹く。


――苦情係(試験運用)


看板が、きし、と鳴った。


優斗が、そっと言う。


「……やらなくても、いいけど」

「でも」

「これ、解決するタイプの苦情かも」


カレンはこめかみを押さえた。


「……最悪」


隊長は期待に満ちた目で待っている。


「ミンナ」

「タノシミ、シテル」


カレンは深く息を吸った。


「……あのね」

「これで終わらなかったら」

「あんたたち、責任取りなさいよ」


優斗は即答した。


「取ります」


隊長も胸を叩く。


「トル」

「トラナイ」

「ワカラナイ」

「トル」


三者三様の「責任」が、

なぜか一致した。


そしてこの苦情は、これまでで一番、解決が面倒な部類に入ると、

二人はまだ知らない。


踊り当日は、思ったより静かに始まった。


広場の真ん中。

特設――というほどでもない、

少しだけ空いた場所。


縄が一本、地面に円を描いている。


「……これだけ?」

カレンが言う。


「うん」

優斗は頷いた。

「場所があれば、成立するって」


「成立って何よ」


周囲には人がいる。

明らかに、昨日より多い。


露骨に遠巻きで、でも視線は外さない。


「……見物人、いるわよね」


「偶然、だよ。たぶん」

優斗は目を逸らした。


「カレン!」


弾む声。


ゴブリン隊長が、

仲間を引き連れて現れた。


今日は兜を被っていない。

代わりに、派手な羽根飾り。


「オドル ヒ」

「カレン ヒ」


「祭りじゃないから」

カレンが即答する。


「オナジ」

「キモチ、オナジ」


嫌な予感が、はっきりした。


「ねぇ」

カレンは小声で言う。


「これ、私の想像してた踊りと違う」


「……僕も」


隊長が手を打つ。

パン、と乾いた音。


ざわめきが止まる。


「……やるの?」

「ヤル」

「ミンナ、マツ」


カレンは深く息を吸った。


「言っとくけど」

「私、踊りのプロじゃないから」


「シッテル」


「可愛くもないし」


「シッテル」


「機嫌も、良くない」


「シッテル」


全部把握されている。


文句を言いながら、

カレンはピンクのドレスを着ている。


「……文句は受け付けないわよ」


優斗が一歩下がる。


「応援、してる」


「後でね」


円の中へ。


音はない。

音楽もない。


あるのは、視線と沈黙だけ。


(……バカらしい)


だから、わざとバカみたいに一歩踏み出した。


ぎこちない。

適当。

リズムもない。


戸惑い。


その瞬間。


ドン。


隊長の足音。


ドン、ドン。


増える。


突然両手を挙げた。


フンババ、フンババ、フンババ。


揃っていく。


真似だ。

完璧じゃない。

でも、同じだ。


「……は?」


「コレ」

「イイ」

「ミンナ、イッショ」


カレンは、泣き笑いになる。


「……最悪」


それでも、せっかくのドレスだ。


動きを、少し大きくする。


人が、一歩前に出る。


「踊り……なのか?」

「わからん」

「でも、楽しい」


拍手が起きる。

一度、二度、三度。


輪になる。


優斗は遠くで思う。


(盆踊り……?)

(苦情じゃない)

(でも、説明しづらい)


「……満足?」

「スゴク」


「キライ、ナイ?」

「……前よりはね」


「ダイジョウブ!」


その瞬間。


「また、やるのか?」

「次は、いつだ?」


カレンの笑顔が消える。


「……聞いてない」


優斗が目を逸らす。


「噂は……もう動き始めてます」


静かな国に、音のない踊りが刻まれた日。


これが苦情を減らすのか、増やすのか。


それは、まだ誰にもわからなかった。




【カレン:追記】

フラメンコ習っていてよかった、と思ったのに……涙目。


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