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もぐらの苦情



カレンと、モグラが向かい合っていた。

距離は、わりと近い。というか――近すぎる。


カレンは、無意識に一歩下がった。


モグラは、丸い目をぱちぱちさせながら、

前足を胸の前でそわそわ動かし、口をぱくぱくと開け閉めしている。


そして、妙に間延びした発音で話し出した。


「ぁたしたち、ドラゴンと、ぁそんでゃってる。

 まぁ、ぼらんてぃぁ?」


語尾が上がるたび、土のついたひげが、ぴょこぴょこ揺れる。


カレンの眉が、ぴくりと動いた。


――あ、これ。

たぶん普通の人には、「キュッキュッ」みたいな音にしか聞こえないやつだ。


カレンの未実装スキル。

正式名称不明。

とにかく――翻訳ができる。


本人いわく、

「高知能翻訳」。


モグラは続ける。


「でもドラゴン、ぁたしたちに、気つかわない。

 もう、なんか、ミミズとか、みんな食べる」


「食べ物、なくなって、こまってる」


そこで、少し間が空いた。


「このままじゃ、こっちが、ミミズになっちゃう」


深刻なのか、冗談なのか、判断に困る沈黙だった。


「だから、なんか食べ物、ちょーだい」


カレンは、はっきりと顔をしかめた。


「……もう、気持ち悪いわ」


視線を逸らし、腕を組む。


「ぬいぐるみなら可愛いのに、実物はリアルすぎ」


「もう少し離れて。あっち行って!」


モグラは、しょんぼりしたが、それでも一歩も下がらない。


優斗は、「ミミズ……か」と、小さくつぶやいた。


地面を見る。

土はある。

環境条件は、悪くない。


――試してみるか。


軽く、詠唱する。


――ミミズ。

 土の中に。

 どんどん、増えて。

 お願い。

 はぷんて。


一瞬の静寂。


次の瞬間。


ど、ど、どーーーん。


地面が、わずかに盛り上がった。


「……え」


「えっ……すごい。成功だ」


優斗は、自分の手を見てから、思わず胸を張った。


「これで、納得してくれた?」


モグラは、目を見開き、こくこくと大きくうなずく。


「ぁたしたち、たしかに、ミミズ、ふえた」

「はぷんて、すごい」

「ありがと」


ほっとした空気が流れ――た、が。


モグラは、一拍おいて、続けた。


「でもドラゴン、まだ、ぁそんでる」


「ぁそんで、あばれて、土、ぐちゃぐちゃ」

「穴、くずれる」

「家、せまい」


「だから、もぅすこし、なんとかして」

「飯だけじゃ、たりない」


カレンの顔が、目に見えて歪んだ。


「……もう、厚かましいわね」


「ミミズあげたでしょ」


モグラは、もにょもにょと口を動かし、少しだけ胸を張る。


「ぁたしたち、ドラゴンの、めんどう、見る」

「だから、待遇改善、のぞむ」

「はやく、対処、よこせ」


優斗は、がくっと肩を落とした。


――改善要求って、

現世でも異世界でも、無限なんだな。


……ん?


「待遇改善?」

「対処?」


さっきまで、

「ぼらんてぃぁ?」とか言ってなかった?


優斗が首を傾げていると、カレンが、ふっと笑った。


「アタシの高知能翻訳が、効いたわね」


「要するに――」


カレンは、モグラを指さす。


「『おドラと遊んでやるから、

 われわれの言うことを聞け』」


「そういうことよ」


優斗は、遠い目をした。


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