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迫ってくる恐怖




ゴブリン隊長が、胸を張り、得意満面に言い放った。


「オふっ。ワレワレ、カッタ」


その言葉に、周囲のゴブリンたちが小さくざわめく。


「……勝った?」


優斗は、その意味を測りかねていた。


「イクゾ」


短く命じると、ゴブリン隊長は先頭に立って歩き出す。


かなり歩いた。


足元は不安定で、岩に何度もつまずく。


天井は低くなり、光も、どんどん弱くなる。


「……ねえ」


優斗は、声を抑えきれずに尋ねた。


「かなり歩いたけど……ドラゴンは、近い?」


自分でも分かるほど、声が震えていた。


ゴブリン隊長は、答えずに立ち止まり、

ゆっくりと、下を指さした。


「ココ、シタ」


――下?


優斗は、喉が鳴るのを感じた。


もう一段、

下へ。


階段とも呼べない、

岩を削っただけの通路。


一歩、足を踏み出した瞬間。


空気が、一気に変わった。


重い。


冷たい。


冷気が、そのまま肺の奥へ流れ込んでくる。


闇も、さきほどとは比べものにならないほど

濃くなっていた。


灯りの届く範囲が、極端に狭い。


まるで、闇に飲み込まれていくようだ。


優斗は、思わず身震いした。


(嫌な気分だ)


理由は、はっきりしている。


(どう考えても、勝てそうな相手じゃない)


ドラゴン。


言葉だけで、喉が渇く。


(全滅したら……どうしよう)


頭の中で、最悪の光景がよぎる。


炎。

悲鳴。

逃げ場のない闇。


涙が、じわりと滲んだ。


(僕は、いつもこうだ)


肝心なところで、怖くなって、立ちすくむ。


守りたいと思っても、力がない。


考えるほど、足が重くなる。


そのとき。


「優斗、びびってるわね」


カレンの声が、あっさりと刺さった。


「ほんと、あんたと一緒にいると、

 ろくなことにならないわ」


鼻で笑う。


だが、その声は、どこかいつもより大きい。


「それにさ」


歩きながら、肩越しに言う。


「ドラゴンのくせして、なんでいつまでも、

 こんな所に引きこもってるの?」


「アタシがドラゴンだったら、とっくに洞穴から出て、火を吐きまくってるわ」


言葉は強気。


けれど、拳は、ぎゅっと握られている。


「どうせ――」


カレンは、わざと乱暴に言い切った。


「間抜けな、オオトカゲよっ」


その声が、闇に吸い込まれていく。


優斗は、その背中を見つめた。


(……強いな)


いや、強がっているだけだ。


それでも。


前に立つ背中があるだけで、少しだけ、足が動いた。


優斗は、震える息を押し込み、

一歩、

闇の奥へ踏み出した。


ドラゴンが、本当に待っている、その場所へ。

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