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絶叫




何事もなかったかのように、

ゴブリン隊長は先頭を歩き続けていた。


振り返りもしない。止まる気配もない。


(……本当に、近いのか?)


暗く、歩きにくい岩道を、

優斗たちは、ひたすらゆっくり進んでいた。


天井は低く、壁は湿っている。


どれくらい歩いたのか、もう分からない。


時間の感覚が、完全に失われていた。


「もう……」


不意に、カレンが立ち止まり、片足を押さえた。


「こんなところ、来るんじゃなかったわ」


苛立ちを隠さない声。


「足が痛くて……最悪」


――え?


優斗が、その足元に目を向けた瞬間。


カレンの足首に、黒く細い脚が、そっと触れた。


「……っ!」


蜘蛛だった。


それも、ただの蜘蛛じゃない。


手のひらほどもある、黒光りする身体。


脚をくねらせながら、よじ登ろうとしている。


「……いや」


声にならない声が、カレンの喉から漏れた。


周囲を見回した、その瞬間。


優斗は、言葉を失った。


地面一面に、蜘蛛。


岩の隙間には、蛾がびっしり。


羽音が、ざわざわと重なる。


さらに――


天井から、ばさばさと音を立てて、コウモリが現れた。


「ゴフッ。キモチ、ワルイ」


ゴブリン隊長の一言を合図に、事態は一気に崩壊した。


「ギャアアアア!」


「クルナ! クルナ!」


ゴブリンたちは悲鳴を上げ、右往左往して逃げ出す。


剣や槍を振り回すが、敵は小さく、素早い。


空を切る音ばかりが響く。


しかも――


ほとんどのゴブリンは、食べ物の入った荷物を

しっかり抱えたままだった。


「ニゲル!デモ、メシ!」


「ハナスノ、ムリ!」


逃げたい。でも食べ物は手放せない。


混乱は、さらに加速する。


優斗も、反射的に木刀を振り回した。


が、足元の石につまずき――


「うわっ!」


勢い余って、その場に転倒した。


視界が揺れ、埃が舞う。


(まずい……!)


その間にも、カレンの足元では、蜘蛛が増えていく。


カレンは、

必死に息を整えながら、

気を失いそうになるのを

こらえていた。


――だめ。


――無理。


――限界。


そして。


腹の底から、ありったけの恐怖を込めて、叫んだ。


「ぎゃあああああああああああーーーーーーーーーーーー!!」


凄まじい声だった。


洞窟の壁に反射し、何重にも重なって、響き渡る。


「早く!アタシを助けなさいよーーーーーーっ!!」


その瞬間――


異変が起きた。


ばたばたと飛び回っていたコウモリが、次々と空中で力を失い、

地面へ落下していく。


ドサッ。

ドサドサッ。


蜘蛛も、

蛾も。


ひっくり返ったまま、

ぴくりとも動かない。


まるで、音そのものに、叩き落とされたかのように。


静寂。


あまりに急な沈黙に、誰も動けなかった。


「……え?」


優斗が、呆然とつぶやく。


ゴブリン隊長は、目を輝かせて言った。


「カレンさま、スゴイ」


「ワレワレ、タスカッタ」


「……今の、魔法じゃ……ないよね?」


恐る恐る尋ねる優斗に、カレンは、足をぷるぷるさせながら怒鳴った。


「知らないわよ!!

 出たものは、

 仕方ないでしょ!!」


そのとき。


「ミミ……コワレタ」


ゴブリンたちが、両耳を手で押さえて、うずくまっていた。


優斗は、床に転がる虫たちと、カレンを見比べて思った。


(……この人、本当に一般人なんだよな?)


洞窟には、カレンの余韻だけが、いつまでも残っていた。

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