勘違いしている
様子を見に行くと、通路の先で、数匹のゴブリンが立ち止まり、
騒いでいた。
暗闇の中、小さな身体を寄せ合い、ぶるぶると震えている。
「ドラゴンさまの、ノロイ!!」
一匹が、裏返った声で叫んだ。
「ノロイ! ノロイ!」
前に進めないらしい。
優斗は、胸の奥がひやりとするのを感じた。
(……まさか、本当に何かあったのか?)
近づいてみると、一匹のゴブリンが、通路の真ん中で
完全に動けなくなっていた。
身体を固くして、目だけをきょろきょろさせている。
「どうしたの?」
優斗が声をかける。
ゴブリンは、震える指で上を指した。
天井。
そこを見て、優斗は、少し拍子抜けした。
長槍が、天井の岩に引っかかっている。
刃先が、ぴたりと挟まって、前にも後ろにも動けない状態だった。
「……あ」
優斗は、状況を理解して、思わず声を漏らした。
「槍が、天井に当たってるみたいだよ」
ゆっくり、できるだけ落ち着いた声で続ける。
「横にして持てば、通れると思う」
ゴブリンたちは、不安そうに天井を見上げたまま、
ごくりと唾を飲み込む。
「……ゴフッ」
一匹が、おそるおそる聞いた。
「ノビタ?ヤリ?」
「……は?」
カレンが、即座に振り向いた。
「伸びるわけないでしょ!」
鋭い声が、洞窟に響く。
「ほんと、単純な話で、つまずくなんて!」
「ただ槍が長いだけ!横にすればいいの!」
ゴブリンたちは、びくっと肩をすくめた。
何匹かは、反射的に一歩下がる。
優斗は、慌てて間に入った。
「ご、ごめんね」
ゴブリンたちに向かって、小さく頭を下げる。
「暗いし、怖いよね」
「無理もないよ」
カレンの背中を見ると、ほんの一瞬だけ、肩が強張っているのが分かった。
(……ああ)
優斗は、心の中で思う。
(カレンも、怖いんだ)
平気な顔をしているけれど、きっと、限界まで張りつめている。
だから、言葉が強くなる。
優斗は、少しだけ声を落として、ぽつりと言った。
「カレンは……怖いんだと思う」
カレンは、こちらを振り返らなかった。
でも、何も言い返さない。
ゴブリン隊長は、その様子を黙って見ていた。
そして、小さくうなずくと、優斗に向かって
手を上げた。
行進の合図。
「イコウ」
短く、しかしはっきりと。
「ハヤク」
ゴブリンたちは、言われた通り、槍を横に構え直す。
さっきまでの混乱が、嘘のように、少しずつ隊列が整っていく。
優斗は、胸の奥に残るざらりとした不安を抱えたまま、
その後に続いた。
(……まだ、何か起きそうだ)
そんな予感だけが、暗い通路の奥で、静かに膨らんでいた。




