ドラゴンに会いにいこう
「とにかく、ダンジョンに行かないと話にならないわ」
カレンは腕を組み、不機嫌そうに言い切った。
「あんたたちと一緒に行くのはイヤだけど……」
一瞬だけ、視線を逸らす。
「……仕方ないわね。フン」
吐き捨てるような声。
その様子を、一匹のゴブリンが、じっと見つめていた。
大きな目を瞬かせ、やがて、ぽつりと言う。
「カレン様、イッショ。ウレシ」
その言葉に、優斗の胸が、きゅっと締めつけられた。
(……まさか)
(こんな場所に来てまで、カレンが好かれるなんて)
理由は、分からなくもない。
はっきり物を言い、恐れず、前に出る。
ゴブリンにとっては、頼もしく見えるのだろう。
でも――
優斗は、深く息を吐いた。
「……魔導士でもないのに」
小さく、つぶやく。
剣も、強い魔法もない。
自分は、ただの人間だ。
(それでも)
(行かなければ――カレンの命がない)
それだけは、はっきりしていた。
ドラゴンに会わなければ、この国は、そしてカレンは、
確実に危険に晒される。
優斗は、意を決して顔を上げた。
喉が、ひりつく。
それでも、声を出す。
「……みんな」
少し震えながらも、はっきりと。
「僕に、力を貸してくれ」
ゴブリンたちの視線が、一斉に集まる。
「ドラゴンに会いに、行こう」
短い沈黙。
そして――
ゴブリン隊長が、肩をいからせた。
「モチロン」
「チカラ、カス」
「イコウ」
力強く、うなずく。
他のゴブリンたちも、剣や長槍を立て、ぎこちなく背筋を伸ばした。
足並みは揃っていないが、覚悟だけは、伝わってくる。
「マカセトケ」
その言葉に、優斗は胸の奥が少しだけ温かくなった。
一方で、カレンは明らかにイライラしていた。
髪を指でいじり、視線を逸らしたまま言う。
「とっとと行って、用事を済ませるわよ」
「こんな場所、長居するもんじゃない」
(……この国のことは)
優斗は、心の中で思う。
(できれば、自分たちで何とかしてほしい)
自分は、救世主じゃない。
ただ巻き込まれただけの、不器用な人間だ。
それでも。
一歩、足を踏み出す。
背後で、ゴブリンたちの足音が重なった。
暗く、先の見えない道。
それでも――もう、引き返せなかった。




