気になること
「こんなんだから、あんたたちはサルなのよ」
カレンが吐き捨てるように言った。
「完全な人間になるには、あと千年はかかるわね」
その言葉に、
ゴブリンたちはきょとんとした顔をするだけだった。
涙目になった優斗が、慌てて割って入る。
「そんなこと言わないで……僕のせいなんだから」
自分が判断を誤った。
準備も、知識も、全部足りなかった。
「……少し休んで、様子を見よう」
そう言ったときだった。
腹を押さえた隊長ゴブリンが、よろよろと近づいてくる。
「キノコは、タブン、ナオル」
「ミンナ、ハラ、ヘッテイル」
そう言って、隊長は後ろを振り返った。
数体のゴブリンが、同じように腹を押さえながら、
無言でうなずく。
そして――
森の奥へと、散っていった。
「……ちょっと」
カレンが眉をひそめる。
「どこ行く気?」
「スグ、モドル」
隊長は胸を張る。
「カレン様ノ、タメ」
その言い方が、逆に不安を煽った。
嫌な予感しかしない。
十分も経たないうちに、草むらががさがさと揺れた。
戻ってきたゴブリンたちは、やけに誇らしげだった。
「トレタ」
「イイモノ」
先頭の一体が、両手で差し出したのは――
脚が、まだぴくりと動いている、小さな獣。
毛は汚れ、どこからか血がにじんでいる。
「……」
カレンは、完全に言葉を失った。
「アタタカイ」
別のゴブリンが、うれしそうに補足する。
「スグ、タベル」
「ちょっと待って!」
優斗が慌てて前に出た。
「それ、せめて……火を通してから――」
「イラナイ」
隊長は即答した。
「ナマ、ウマイ」
そう言って、獣のしっぽをつかみ、持ち上げた。
「カレン様、ドウゾ」
「ひぃぃぃぃっ!!」
カレンが後ずさった。
「薄気味悪いもの、出さないで!」
「あんたたち、全然学習してないわね!」
「生はダメだって、わかったでしょ!」
「イマ、ワカッタ」
隊長は迷いなく答える。
「カレン様、サイコウ」
「……アタシだって、お腹すいてるわよ」
カレンは、食べられそうなものを探し始めた。
キュルルルー。
優斗のお腹も鳴る。
「……ごめん、みんな」
小さく、本当に小さくつぶやいた。
「なにか、元気になりそうなものを作るよ」
そう言ったものの、頭の中は真っ白だった。
料理は、家では母任せ。
野外調理の経験もない。
あるのは、拾ったキノコと、正体不明の獣だけ。
「……とりあえず」
火打ち石を取り出す。
手が震えて、うまく火花が散らない。
「貸しなさい」
カレンが苛立った声で言い、ひったくる。
カチン。
乾いた音のあと、小さな火が生まれた。
「なあ、カレン。何かレシピ、思いつかない?」
「そんなに考えなくても――」
焚き火を見下ろし、肩をすくめる。
「焼くか、ぶち込めばいいでしょ」
「……あっ」
ふと、思い出す。
「母さんが、よく作ってくれたスープ」
「僕はキノコを裂くから……」
「君は、この獣を――」
「なに言ってんの!?」
カレンが睨む。
「アタシがやると思った?」
「やらないと思った」
「だったら言わないでよ!!」
「焼けばいいのよ、焼けば!」
「……たぶん」
優斗は答えながら、
キノコを薄く裂き、
枝に刺した。
「コレ、マダ?」
腹を押さえたゴブリンが、
じっと見つめてくる。
「まだ。ちゃんと火が通るまで」
「オソイ」
「マテナイ」
「待って!」
思わず声を荒げてしまい、
優斗ははっとする。
ゴブリンたちが、一斉に動きを止めた。
「……ごめん」
すぐに言った。
「でも、今度こそ失敗したくないんだ」
少しの沈黙。
隊長ゴブリンが、ゆっくりとうなずく。
「……ワレワレ」
「マツ」
その一言に、
優斗の胸の奥が、少しだけ軽くなった。
――たぶん。
これが、最初の一歩だ。
食事もすんで、さぁ行進だ。
だけど……気になることがある。




