またトラブル
「……あの」
優斗が声をかけたときには、
すでにゴブリンたちは思い思いに散らばっていた。
三体は周囲を警戒するように立ち、
一体は地面に棒で、よくわからない図を描いている。
残りは――
「ちょっと」
カレンが目を細めた。
「なんで、あの三匹、荷袋あさってるの?」
「……オナカ、スイタキガスル」
口の端を汚したゴブリンが、悪びれもせず答える。
「早くない?」
「ついさっき城を出たばっかりよ?」
「サクセン、チュウダン」
別のゴブリンがうなずいた。
「ハラ、ヘッタ」
優斗は、胸の奥がざわつくのを感じた。
(……嫌な予感がする)
***
日が傾きはじめたころ、
優斗は一人、森の中に入っていた。
「……たぶん、これなら」
地面に生えたキノコを、
慎重に選んで布に包む。
城下で聞いた話では、
この辺りのキノコに致死性の毒はないらしい。
それでも、油断はできない。
(わからないものは、食べないに限る)
でも、どうしても判別しなきゃいけないときは――
皮膚の薄いところに、汁を垂らす。
テレビで見た方法だ。
キノコの傘を少し潰し、手首に塗る。
……赤くならない。
(大丈夫、かな)
用心に越したことはない。
優斗は自分に言い聞かせた。
生のキノコは毒だから、
焼かないで食べたらダメだって、
母さんが言っていた。
「火をおこして、ちゃんと焼こう」
そう決めて、急いで戻る。
その途中で、嫌な予感は現実になった。
「……煙、出てない?」
焚き火のあるはずの場所に、
黒い影がしゃがみ込んでいる。
火はない。
その代わり――ゴブリンたちが輪になって、
何かをかじっていた。
「あ」
優斗が声を出した、その瞬間。
「キノコ、アマイ」
「ニガクナイ」
「イケル」
「ちょっと待って!」
駆け寄りながら叫ぶ。
「それ、生で――」
「ゴフッ」
一体が急にうずくまり、腹を押さえた。
次の瞬間、別の一体も膝をつく。
「……あれ?」
腕を組んだカレンが、冷静に言う。
「なんか、始まったわね」
「ウ、ウゥ……」
「ナカ、グルグル……」
地面に転がるゴブリンが、次々と増えていく。
「……まさか」
優斗の顔から、一気に血の気が引いた。
「火、通してない……?」
先頭に立っていた隊長格のゴブリンが、
少し遅れてキノコを口に運び、もぐもぐと咀嚼し――
「……」
一拍置いてから、腹を押さえた。
「……ワレワレ、シクジッタキガスル」
「そうね」
カレンが、笑い出しそうに口を押える。
「やっぱり、ただのサルね」
「ハヤク、タベナイト、トラレル」
隊長は苦しそうにうめいた。
「ダカラ、タベタ」
その言葉に、優斗の胸がきゅっと締めつけられた。
「……ごめん」
目が、じわりと潤む。
「僕のせいだ」
ちゃんと説明しなかった。
ちゃんと見ていなかった。
――守るって言ったのに。
ゴブリンたちは、うめきながら地面に転がっている。
優斗は拳を握りしめ、必死に次の行動を考えた。
(……今度こそ、失敗しない)




