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王と長老の決断



私室にて、机に向かい、静かに思索を巡らせていた。


王様は――試されている。


効果は、確かにある。

それは疑いようがない。


詠唱した者の資質に問題があることも、すでに理解されているはずだ。

そして、制御ができないという事実も。


ゆえに――

魔石を扱える者を、改めて探すおつもりなのか。


いや。


どこか、楽しんでおられる節もある。

危うい綱渡りを、わざと選んで歩いているかのように。


あの者たちは、いったいどこの国の者なのか。

常識とは異なる、不思議な知識を持っている。

礼法にも通じていないのに、核心だけは平然と突いてくる。


……厄介だが、


放っておくには、惜しい。


長老は執務机の前に立ち尽くしていた。


机の上には、書状、書状、また書状。

封蝋の色も紙の質もまちまちだが、内容はおおよそ察しがつく。


――臭い。

――作物が異様に育ちすぎている。

――子どもが納豆を踏んで転んだ。

――洗っても洗っても匂いが落ちない。

――井戸の底がねばついている気がする。


一通、手に取る。


震えた文字で書かれた陳情は、怒りよりも困惑が勝っていた。

書き手の姿が目に浮かぶようで、長老の胸は少し重くなった。


長老はため息をつき、そっと紙を戻した。


力はある。

だが、制御できぬ力は、祝福ではない。


王は、それを理解している。

理解したうえで、なお楽しんでいる。


問題は――あの二人だ。


長老は窓の外に目を向けた。


遠くの畑は、異様なほどに青々としている。

よく見れば、成長しすぎた穂が重みに耐えかねてしなっていた。


「苦情係が、必要だな……」


思わず声に出ていた。

聞く者のいない独り言は、静かな部屋に吸い込まれていく。


そう呟き、次の書状を開いた。


***


夜更け。


王宮は、ようやく静まり返っていた。

昼間に走り回っていた侍従たちの気配も消え、

回廊には、灯りの揺らぎだけが残っている。


謁見の間。


昼間の喧騒が嘘のように、灯りは落とされ、

玉座だけが淡く照らされていた。

高い天井に影がのび、静けさが重く降りている。


王様は、ひとり、杯を傾けていた。


「……あの魔石」


低い声だった。

語尾に、わずかな苦味が混じっている。


「やはり、制御できぬな」


長老は、少し離れた場所で静かに答えた。


「はい。威力は確かでございます」


「しかし――」


王様は杯を持ったまま、視線を宙に上げた。


「詠唱主の『質』により、結果が著しく変わります」


長老の言葉に、王様は苦笑した。


「質、か」


「優斗は、慎重すぎます。恐れるがゆえに、力を押しとどめる」


「そして、あの娘は?」


長老は、一瞬だけ言葉を選んだ。


「……欲と勢いで唱えます。嘘と自信も添えて」


王様は、声を立てずに笑った。


「だから、降る」


静かな笑い。


「量も質も、限度を知らずにな」


長老は静かにうなずいた。


「制御はできませぬ。誰にも。詠唱主自身ですら」


沈黙が落ちた。


遠くで、夜警の足音が小さく響いては消える。


「……危険だな」


「はい」


ふたりは、同時にため息をついた。


危険でも、ドラゴンはやらせねばならぬ――

王は非情に、そう言い放った。


その声には、

国を背負う者だけが知る重さと、

ほんの少しの期待が、静かに混じっていた。


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