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宴です



「どうしよう? カレン」


「どうもしないわよ。事実はひとつ」


カレンは、ぴんと指を一本立てた。


「あんたがカエルを降らせた。

 その結果が、これ」


床一面、ぴちぴちと跳ねる緑の群れ。

壁にも、柱にも、謁見の間は完全に占拠されていた。


「そんな言い切らなくても……」


「カエルなんて、食べたことないわ」


「でも考えないと。首、はねられちゃうよ」


「そこを先に言いなさいよ!」


カレンは一瞬だけ黙り、

こめかみを押さえてから大きく息を吐いた。


「で? なにか案は?」


「前にテレビで、カエルは鶏肉に似てるって言ってた」


「テレビ情報で命を守ろうとするな」


「じゃあ……唐揚げ?」


「量が多すぎる。揚げるの大変よ」


少し考えて、カレンがぱっと顔を上げた。


「ゴブリンたちを使いましょう。飛脚で足が丈夫だし、安いし――」


「今、本音混じったよね!?」


「……じゃなくて、頼みやすいし」


***


厨房では、ゴブリン隊長と数匹がそわそわしていた。


「ワレワレ アゲル ツクル!」


「心強いです。本当に、助かります」


優斗が深く頭を下げる。


「粉と油と塩、ありますか?」


「コナ アル。

 ウシ アブラ アル。

 シオ アル!」


「牛脂なんだ……本格的だな……」


(母さんの唐揚げ、横で見てたし。

 なんとか、なる……はず)


優斗は、必死に手順を説明する。


「カエルをさばいて、

 小さく切って、

 塩ふって、

 粉つけて、

 油に――」


ゴブリンたちが復唱した。


「サバク!

 キル!

 フル!

 ツケル!

 オトス!」


「体育会系すぎない!?」


「僕がさばくから、

 手伝ってください」


「アンタ平気なの?

 すごいわね」


カレンは腕を組む。


「アタシは現場監督ね。指示出す係」


「一番楽なやつじゃん!」


ゴブリンたちは、掛け声を上げながら動いた。


「ホイサ! ホイサ!」


じゅわぁぁぁ。


「……いい音ね」


そのとき、一匹のゴブリンが

揚げたてをもぐもぐ食べた。


「ちょっと!

 勝手に食べないで!」


「アジミ イナイ。

 アジミ ヒツヨウ」


「理論武装してる!?」


「味は?」


「カエル、トテモ ウマイ!」


沈黙。


次の瞬間、全員の動きが一気に加速した。


結果――十七皿分のカエル唐揚げが完成した。


***


大広間は、灯りと香りとざわめきに満ちていた。


カレンは、深紅のドレスで登場する。


「……やけに張り切ってない?」


「女子はね、宴となると高確率で張り切るのよ」


長老の挨拶が終わり、カレンが前へ出た。


「僭越ながら、ご説明いたします」


声が、完全に舞踏会仕様だった。


「このカエルは、私の国では高級食材で――」


(今、作りたてB級グルメなのに)


「高貴な方しか、口にできません」


満面の笑みで言い切る。


引き寄せスキルが、実在したかのようだった。


王様は一口食べ、静かに杯を置いた。


それだけで、すべてが決まる。


「……うまい」


ざわめきが、歓声に変わった。


「うまくいったね」


「味はまあまあ。命は確実に守られたわね」


***


そして――

長老の呼び出し。


嫌な予感しかしない。


「皆さま大変お喜びでした。ご苦労さまです」


長老は穏やかに微笑む。


「ただ、ひとつ残っている仕事がございます」


「……仕事?」


「謁見の間が、どろどろになっておりまして」


部屋には、緑のゼリー状のものが壁にも床にもべったり。


生臭い匂いが漂っている。


カレンの顔色が変わった。


「……アタシ、急に用事を思い出したわ」


「王様が、『ふたり』でと」


長老は静かに告げる。


「これは、王命です」


沈黙。


優斗とカレンは、同時に天井を見上げ、同時にため息をついた。


「……詠唱、取り消せないかな」


「それができたら、苦労してないでしょ」


長い掃除が終わった。


床はピカピカ。

心はボロボロ。


「なんで私まで巻き込まれてるわけ?」


「巻き込んだから。ごめん」


「反省してる?」


「してる。めちゃくちゃ」


優斗は逆立ちした。


天井と床が、ぐにゃりと入れ替わる。


(なんで、いつもこうなるんだ?)


カレンが横目で言った。


「なにそれ、反省ポーズ?」


「違う。現実逃避」


黄色に見えたボールは、

また静かに、青へ戻っていた。


苦情を言いたいのは、こっちのほうだ。



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