表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/61

王のむちゃぶり




優斗は、「今日こそ何も起きませんように」と、自分に向かって詠唱してみた。


――優斗、おまえには何も起きない。

ただ平和な一日が過ぎるだけだ。


……言ってみただけで。

言い終わった瞬間、自分で分かった。

これは完全にフラグだ、と。


案の定、朝食を終えた直後に、王様のお呼びがかかった。


謁見室に入ると、王様はすでに玉座に座っていた。

片手を軽く上げる。

そのたった一動作で、広い空間の空気がぴたりと静まった。


「この謁見室に、何か降らせよ」


沈黙が落ちた。


『何か』とは何か。

誰も聞き返さなかった。

聞いたら負けな気がしたし、聞いた瞬間に詰む気もした。


「では……唱えよ」


逃げ道はなかった。


優斗は、魔石を両手で包み込む。

指先が、わずかに震えている。


(頼む……せめてパンとか……

 角がなくて、噛まれないやつ……)


息を吸い、詠唱を始めた。


「王様のために、な なにか…… 素敵……なものをお願いします、はぷんて……」


直後――ぽと。


天井から、何かが落ちた。


ぽと、ぽと。

緑色の、小さなもの。


「まさか……カエル?」


次の瞬間、音が変わった。


ばたばたばたばた。


雨音じゃない。

跳ねる音だった。


カエルが降ってきていた。

赤い絨毯に。

白い柱に。

そして、王様の足元に。


謁見室は、完全な沈黙に包まれた。


一匹が玉座の肘掛けに跳び乗る。

王様と、目が合った。


ゲコッ


王様は、眉ひとつ動かさない。


「……ほう」


それだけだった。


「王様っ、すみません!」


優斗は即座に土下座をした。

もはや生きたドザエモンの気分だった。


「……これ、片づける人の身にもなってほしいわね」


カレンは、ひょいひょい跳ねるカエルを眺めながら言った。


そのとき――


「失礼します、王様」


カレンが一歩前に出た。


(やめて、今はやめて)


優斗の嫌な予感は、たいてい当たる。


「このカエルですが」


場の空気が、ぴん、と張りつめる。


「わが国では、大変貴重な食材です」


(言ったぁぁ……!)


「高貴なお方しか、口にできません」


沈黙。


王様は、カエルとカレンを、交互に見た。


「……ほう」


わずかに、楽しそうな声だった。


「では、城の者は手を出すな」


淡々と、そう命じる。


傭兵たちは微動だにしない。


(信じた……!?)


優斗は心の中で叫んだ。


王様は、謁見室に残るカエルを見渡す。


「奇妙な国だな」


その日のうちに、

「謁見室産カエルは王宮専用」

という通達が、なぜか城中に回った。


王様は、少し考えるそぶりを見せてから言う。


「お前たち、これで何か作ってみよ」


優斗とカレンは、同時に固まった。


「厨房の力をかりるでない」


王様は、はっきり告げる。


「お前たちが、だ」


逃げ道はなかった。


「料理人じゃないんですけど」


カレンが正直に言う。


王様は、ちらりと視線を向けただけだった。


「つくって見せてみよ」


優斗は悟った。

(納豆のときと同じ匂いがする……)


「宴にする。そのつもりで用意せよ」


宴。


カレンの顔が、ぱっと輝いた。


(いや、喜んでる場合じゃない)


こうしてふたりは、

謁見室にカエルを残したまま、

料理という名の難題を背負わされることになった。


――今日も、平和では終わらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ