王様の御猫後半
長老の私室。
カレンは猫を抱え、胸を張って一歩前に出た。
「見つかりました。この猫で間違いないですね? ね? ね?」
長老は白猫をじっと見つめる。
「……おお。見つけてくださいましたな。この御猫に相違ありませぬ」
「よかったぁ! ね、優斗。ほら見たことか。アタシの勘、当たってたでしょ」
「……うん。すごいね」
優斗は視線を落とし、猫と長老を見比べないようにした。
(違う。毛並みも、落ち着きも、何もかも)
(なのに否定しない。否定しないどころか肯定している)
「長老様。本当に――」
言いかけると、長老は柔らかな笑みで遮った。
「本当に、でございます」
声は穏やかだが、踏み込むなと告げていた。
カレンが耳元で囁く。
「なによその顔。もう帰ろ? 依頼完了、報酬ゲットよ」
「……カレン。本当にそれでいいの?」
「いいに決まってるでしょ。猫の顔なんて全部同じよ」
「猫に謝って」
「イヤっ」
部屋の隅で、王室傭兵が小さく呟いた。
(……ペルシャなら長毛のはずだが……今年に入って八匹目だし……)
優斗は聞こえなかったフリをした。
胸の奥が、ちくりと痛んだからだ。
長老が恭しく猫を抱き上げる。
「では、王様のもとへ」
猫は「ニャッ!」と鳴き、嫌そうにもがいた。
爪が袖を引っかき、細い線が走る。
「ほらほら、主のところに戻れて嬉しいのよ。ね?」
「どう見ても怒ってる」
「細かい男ねぇ。人生は大ざっぱでいいの」
優斗は、ため息を飲み込んだ。
***
謁見室。
「ルシアン様が戻られました」
長老の声と同時に、猫は腕から飛び出し、カーテンの陰へ逃げ込んだ。
「あ、隠れた! 捕まえる?」
王はちらりと視線を向けただけだった。
「戻ったか」
静かに目を閉じる。
「それでよい」
「よいって……普通よくないでしょ」
カレンが小声で突っ込む。
優斗は王の横顔を見つめた。
(この落ち着きのなさで、ルシアン?)
胸の奥が、また小さく痛む。
(『都合のいい真実』で終わらせている。誰も確かめない。確かめたくない)
カレンが腕を組む。
「なにこれ。終わり? ハッピーエンド?」
「……カレン」
「なによ」
「胸が、すっとしない」
「あ……」
カレンは視線を逸らした。
冗談では押し切れない何かを、認めた顔だった。
(得したはずなのに。なのに、なんで)
静寂の中に、小さな声が落ちる。
「……ニャァ」
カーテンが揺れ、影が動く。
それだけで、
嘘と本当の境目が、きしりと鳴った気がした。
誰も口を開かない。
だからこそ、その声だけが残る。
「……ニャァ」




