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成長しすぎです



変化は、翌朝に訪れた。


最初に気づいたのは、城下の農夫だった。


昨日まで芽だったはずの畑が――

妙に、近い。


「……あれ? オレ、寝ぼけてる?」


鍬を持つ手が止まる。


畑が、目線の高さにある。


「ちょっと待て、畑は足元にあるものだろ……?」


近づけば近づくほど、違和感は大きくなった。


麦が肩に当たり、

豆が顔をのぞき込んでくる。


「近い近い近い! お前ら、そんなに人見知りしないタイプだったか!?」


叫ぶ間もなく、ごぼうが地面から飛び出した。


ずぼっ。


「おい! 勝手に出るな! 収穫はこっちの仕事!」


隣では、にんじんがド成長を始めている。


太い。

長い。

抜けない。


「……いや、抜けろよ! そこは空気読めよ!」


農夫が引っ張る。

にんじんも引き返す。


「腕相撲する気か!?」


勝負は――完敗だった。


「……勝てねぇ……今日からオレ、にんじんさまって呼ぶわ……」


そのころ別の畑では、かぼちゃが丸太のように膨れ上がり、

きゃあきゃあと子どもたちが逃げ回っていた。


昼前には、城下全体が異変に包まれた。


「おい見ろ! 畑が森になってる!」

「いや森が畑じゃね?」

「どっちでもいいけどヤバいのは伝わる!」


トマトは木になり、

キャベツは岩となり、

きゅうりは、もはや凶器だった。


「ちょっと刺さったら普通に痛いぞそれ!?」

「子どもに持たせるなよ!? 武器だからな!?」


家々の軒先では、豆つるが窓に絡みつき、

パン屋の前では、小麦が自主的に粉になろうとしていた。


牛が畑に近づけない。

いや正確には――近づいた牛より、作物のほうが強い。


「モ――(無理)」


牛が、目で訴えた。

完全に諦めの目だった。


子どもが叫ぶ。


「おかあさーん! だいこんが走ってるー!」

「つかまえないで! つかまえたら逆に引きずられるわよ!」


誰も訂正しなかった。

というか、訂正できなかった。

正しかったからだ。


王宮の高い窓から、優斗とカレンが城下を見下ろしていた。


畑と森と混沌と悲鳴と笑い声。

すべてが一枚の絵になって渦巻いている。


「……ねぇ」


優斗が、乾いた声で口を開く。


「これさ……成功……でいいのかな……?」


カレンは腕を組み、真顔で答える。


「現実から逃げないで向き合いなさいよ」


「いや向き合ってるからこの顔なんだけど!?」


「食べ放題よ。大繁盛よ。ありがたく収穫しなさい」


「収穫ってレベルじゃないんだよなぁ!? 狩りだよ狩り!」


「農狩りね」


「新ジャンル作らないでくれる!?」


カレンは窓の外を見たまま、ぽつりとつぶやいた。


「でも……いいと思う」


「どこが!?」


「健康には、いいと思う」


「その基準、ゆるすぎない!?」


カレンは胸を張った。


「細かいことは気にしない。絶対命令!!」


「……国家権力の私的利用じゃない?」


「聞こえない聞こえなぁ――い」


カレンは両耳をふさいだ。

優斗は頭を抱えた。


それでも――


その日を境に、この国の辞書から「飢え」という言葉は消えた。

代わりに太字で載った新しい言葉は、ただ一つ。


――成長しすぎ。


そして、人々は悟った。


ドラゴンより、畑のほうが、よほど手強いのだと。


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