表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/21

王都アルミナの洗礼



強制的に、映画で見たような馬車に乗せられ、がたごとと揺られること数十分。


革張りの座席は思いのほか柔らかいのに、心臓は固い石みたいに重たかった。窓の外を流れていく景色は、知らない森、知らない空、知らない世界ばかりだ。


到着したのは、白い石造りで塔がいくつも並ぶ城だった。


見上げるほど巨大な、金細工が施された二枚扉。まるで威圧するみたいにそびえている。長老が合図を送ると、音もなく扉が左右に開いた。その静けさがかえって不気味だった。


一歩踏み込むと、外の熱気が嘘のように消え、ひんやりとした空気が肌を包む。石の床に足音が吸い込まれていく。


「ようこそ、王都アルミナへ」


その佇まいだけで、長老が高位の人物だと分かった。深海を思わせる濃紺の外套。肩口には、太い金糸で編み込まれた精緻な紋章。そこに立っているだけで、圧倒的な実在感を放っていた。声は落ち着いているのに、背筋が自然と伸びる。


「えっと……僕、ただの通行人なんですけど」


自分で言っていても、頼りない声だと思う。現実感はまだ追いつかない。


「大丈夫です。この国では『逃げられない運命の人』を――」


(き、聞こえない!!)


耳に入っているはずなのに、理解するのを本能が拒否した。思わず身震いする。


隣でカレンは、長い黒髪を指で弄びながらため息をついた。


「こんな原始的な奴らに、負ける気がしないわ」


強気なのか無謀なのか、その境界が分からない。


「僕は、勝てる気がしないよ」


情けない返答しか出てこない。泣くつもりはなかったのに、視界がにじんだ。靴の先を見ることしかできない。


「あんた、しっかりしなさいよ」


ぶっきらぼうだけど、少しだけ温度のある声だった。


長老に連れられ、いくつもの回廊を抜ける。高い天井にはシャンデリア。赤い絨毯が延々と続いている。壁には歴代王の肖像画。


(音楽室で見たことあるな。巻き毛の……いや、今はそれどころじゃない)


胸の鼓動がやけにうるさい。靴音と競争しているみたいだ。


やがて、金色の装飾が鈍く光る重厚な扉の前で、足が止まった。


「まずは、そのお召し物を着替えていただきましょう。ここでは決まり事がありますので」


『決まり事』――それが一番怖い言葉に聞こえる。


長老の言葉とともに扉が開く。


そこには、数人の侍女たちが純白の布を手に、作り笑顔を浮かべて待ち構えていた。微笑んでいるのに、目だけが仕事用の冷たい光を宿している。


逃げ道は、どこにもなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ