我儘なお姉様
※詳しくはありませんが虫が出てきますし、虫がちょっと可哀想なことになります。
お姉様は我儘だわ。
そうボヤくのはワルディス伯爵家の次女ルイーズである。彼女は友人が招待してくれたお茶会で毎回姉の愚痴を零すのだ。
そしてそれを聞く友人達は皆同じ顔をして、そして問うのだ。
「今回はどんな我儘だったの?」
「聞いてくれる!?お姉様ったら私がここのお茶会に来るのを知っているのに、私が着けていたリボンが気に入ったから寄越しなさいと我儘を言ったのよ!挙句に、お姉様が要らなくなったこのリボンを着けなさいって!私はあのリボンが良かったのに!」
「まあ、どんなリボンでしたの?」
「とても素敵なの!緑色だけど、不思議な光沢で虹みたいになっていてね。本当に素敵だから皆に見せて差し上げたかったのに。お姉様の我儘は酷いわ!」
ルイーズは悔しそうに涙目になるけれど、その場にいた彼女の友人達は揃いも揃って苦笑している。
ルイーズはお人形のようにとても愛らしい。それこそ彼女の姉が押し付けたという淡いラベンダーカラーのリボンがとても似合うくらいに可愛らしい。
なのにルイーズ本人の趣味はとても悪い。彼女が着けて来ようとしたリボンは明らかに似合わない物だろう。領地が田舎の子はボソリと「玉虫色じゃん」と呟いていた。幸いにしてルイーズの耳には届かなかったが。
ルイーズの美的センスはズレている。本人が好きな物と似合う物がズレ過ぎて、姉が何とかルイーズの見た目に合うように苦労しているのが見て取れる。
だから、ルイーズが姉を我儘だと言っても皆苦笑するだけで賛同しないのだ。だって姉の気持ちが分かるから。
それでも、多少はルイーズに合わせているのだろう。ルイーズの着ているドレスはクラシカルな紫色で黒のフリルとリボンで装飾されている。リボンはこのドレスに合わせたのだろう。
紫と黒の組み合わせは、少なくともこの国の若い令嬢が着る事はない。ルイーズは好きなようだけれど。そしてブローチはよく見れば何故か頭部の骨を模したもので、銀で出来ているように見受けられる。
ルイーズは淡いピンクやオレンジが似合いそうなのに、それとは真逆の毒々しい物を好むから、姉はギリギリを攻めているのだろう。
あまりにも否定するのは可哀想だけれど、あまりにも悪趣味なのはルイーズに似合わなさ過ぎて視界の暴力だから。
「お姉様のばかぁー!」
嘆くルイーズに、友人達は心の中で、ロザリア様頑張って!、と応援するばかりであった。
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娘のルイーズはとても可愛いお人形みたいな顔立ちなのに、趣味が悪すぎて姉のロザリアがどうにかしようと奮闘しても、お姉様が我儘でうばわれるの!と憤慨するばかりである。と二人の娘たちの親は何とも言い難い気持ちである。
何故ルイーズがそうなったのかは分からないけれど、気付いたらルイーズの趣味はそうなっていた。
それが似合うなら、親から見て趣味が悪いと思っても好きにさせたのだけれど、あまりにも似合わないのだ。
ロザリアが敢えて悪者のようにルイーズから目立ちすぎる悪趣味アイテムを取り除いてくれた上で、ギリギリ可愛く見えるアイテムに付け替えてくれるから何とかなっている。
親としては娘の希望通りにしてあげたいけれど、奇抜すぎるドレスを理解出来ないので、ロザリアに頼ってしまうことは申し訳ないと思う。
「どこであんなデザインを知ったのだろうか」
「分かりませんわ……ロザリアがいて良かったかもしれませんわね」
辛うじて許容範囲に収めてくれる娘に感謝しながら、やはりどうしてこうなったのかは判明したい親であった。
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婚約者のルイーズは面白い。
初めて顔を合わせた時はピンクのドレスで白のレースやリボンが付けられていて、まるで人形のように可愛いと思っていた。
しかし次に会った時のルイーズは黒の生地に明るい若草色のフリルをあしらったドレスに蜘蛛のブローチを付けていた。
え、遠回しの拒絶?と思ったのだが、帰り際にルイーズの姉から何度も頭を下げられつつ、あの格好がルイーズの好みなのだと教えられた。
普段は隙を見て明らかにおかしいものを取り上げたりしているのだが、今回はもう最初から趣味を理解してもらった方が良いのではとなったらしい。
「代替品の用意が間に合いませんでしたの。あの子は自分の外見を理解していないので、あれに慣れてくださると嬉しいですわ」
「なるほど……確かに奇抜ではあるが、彼女は服の趣味だけがああなのかい?」
「基本的には自分の物のみですわね。部屋の家具などもあの系統ですわ」
「ふむ……我が家に嫁いだ場合、彼女の部屋だけがああ言ったものになるというわけかな?」
「はい。他の方に強要はしませんし、自室以外には手を出しません。ただ、自室であれば好きなようにいたします」
「それならば、まあ、どうにかなるかな?」
「なお、夜会なども気を付けないとあの趣味で行こうとします。わたくしがいない以上、ロナウド様が対処せねばなりません」
「覚悟しよう」
それ以降、ルイーズとの交流の時に彼女は自分の好きな服を着てくるようになった。そして姉のロザリアの愚痴を言うのだ。
「お姉様は我儘だわ。先日の夜会で折角買ったばかりのブローチを取られてしまったのよ」
「どんなブローチなのかな?」
「聞いてくださいます!?私が一目惚れした髑髏と蜂が薔薇の茨に絡まったとても素敵なデザインだったのに!」
きぃ、と悔しそうになげくルイーズだけれど、間違いなくロザリアはいい仕事をした。先日の夜会といえば公爵家主催のもので、夫人は虫が大の苦手である。
「ルイーズ、ネルヴィラ夫人は蜂が苦手だったから良かったよ」
「まあそうでしたの?でも、お姉様の我儘を許す理由にはなりませんわ!」
ルイーズは常に「お姉様は我儘だわ」と言うが、それでも慕っているのだから仲が良いのだろう。あくまでも外に出る時に回収するだけで家では好きなようにさせるのだから。
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ロザリアは己の妹が可愛い。
だからこそ、彼女が出掛ける時に彼女の持ち物を回収する。
虫の羽のようなリボン
髑髏のブローチ
蜘蛛の巣が刺繍されたドレス
列挙すれば数え切れない程の悪趣味なものを何とか変えてきた。
それはワルディス伯爵家の名誉の為であるが、ルイーズを詳しく知らない誰かに悪く言われるのを阻止したかったからに過ぎない。
ルイーズがそう言ったものを好むようになった切っ掛けを知っているのは恐らくロザリアだけであろう。
元々ルイーズは虫を怖がる性質ではなかった。寧ろ愛でていた。
ワルディス伯爵家が治める領地にある本邸は自然豊かな中にあるので、それはもう虫は嫌という程出てきた。
ロザリアは虫は嫌いだが見る分には耐えられる。それに対してルイーズは触れることも出来た。
幼い日のある時、領地で最も栄えている街に遊びに行った際、ロザリアとルイーズはそれを見た。
標本である。
羽を広げた蝶が規則正しく並ぶそれを見たルイーズは目を輝かせていた。ロザリアは好きな人は好きだろうけれど、好みでは無いし、むしろあまり好ましく思わなかったのでその場を去りたかったのだけれど、ルイーズがじっと見ていたので我慢した。
その時はそれで終わったが、その後からルイーズは捕らえた虫を殺すようになった。侍女の悲鳴にロザリアは何が起きたのかと慌てて向かえば、ルイーズの手の中に羽をむしられた何かがいた。
「上手くできないの、お姉様」
ポツリとこぼしたルイーズにロザリアはあの標本をルイーズは作ろうとしたと察したのだ。しかし、ああ言ったものは専門とする技術者が作るもので、令嬢には到底無理なものだとロザリアは諭した。
わかりました、とまたもやぽつりと零したルイーズはどこか寂しそうだった。
その後、ドレスを作る際に手違いで混じっていた蝶の刺繍が施された生地を見てルイーズの目に入るようにそっと彼女に教えた。
その時にルイーズは知ったのだろう。本物を使わなくてもどうにかする方法を。
流石のロザリアでもそこからどんどんと違うほうに突き進むルイーズには驚いたし、止めようとした。
しかしルイーズが止まることは無かったので回収しては「お姉様は我儘だわ!」と怒るのだ。
代わりのものを渡せば大人しく着けるので可愛い妹だ。
あの時に蝶の刺繍の生地を見つけなければきっとルイーズは虫の命を奪い続けていたと思う。何故あれに魅了されたのかは分からない。しかし、ルイーズに美しいものとして認識された。
「今後はロナウド様がどうにかするにしても、我が家にいる間はわたくしが責任を取らないと」
妹のものを奪う姉とルイーズが嘆こうとも変えるつもりはない。
あの日出掛けたのはロザリアが願ったからで、あの道を通ったのも、あの店に辿り着いたのも全部ロザリアが導いたから。
そしてルイーズは出会ってしまった。
何か一つでも違えばルイーズのあの趣味は開花しなかったはずだから。
ロザリアはそのことを誰にも言えなかったしきっとルイーズも覚えていないだろうから、この罪悪感は彼女が結婚するまでは抱えるつもり。結婚したら、まあそれでもロナウドが受け入れてくれるなら許された気がするので、自分を許すつもりだけど。
ロザリアはルイーズに似合う可愛らしい色のリボンやハンカチ、帽子を集める。
これらは回収したものの代わりに渡すもので、お姉様は趣味が悪いわ、なんて言いながら着けてくれるのだろう。
この世界は異世界なので、標本があったりしますが気にしないで下さい。
ゴシックイメージですが、趣味が悪いとは思いません。
ただ、ルイーズは甘ロリ系が似合うタイプなのと、虫好みがベースなので家族から趣味が悪いと思われています。
姉妹仲は良いです。
ロザリアにお揃いの服が着たいわ、と言われたら喜んで着るし、お姉様とお揃いのアイテムも沢山持ってます。
ただ、気合を入れてお出かけの時にアイテムを奪われるので「きぃぃ!」ってなる子です。
愚痴の後には「お姉様はね!」とお姉様自慢します。




