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星澪の行いの是非を問われれば、決して悪いとは言えないだろう。むしろこんな異世界に突然呼び出されたのに良くやったと言う奴だっていると思う。
俺達を玩具にするために召喚した魔族達も、まさかこんな怪物女を呼び出してしまっていたとは夢にも思わなかったろう。
無理もない。俺はこの異世界に召喚された当初「召喚した勇者に強力なスキルを与え庇護を求める場合、そいつの人間性次第で国が滅びる」なんて事を考えたりしてたけど、それが今ここで実現するなんてことは予想もしなかったしな。
まあ言うなれば魔族達の自業自得、全くもって星澪は悪くない。
それでもやっぱり彼女のことはあまり好きにはなれない。
何故ならさっきの彼女の一言、そこには罪悪感はもちろんのことその他一切の感情が全く感じられなかったからだ。
「たぶん千人以上いましたよ、少しくらいは何か思わないん……ですか?」
顔を伏せたまま問い掛けてみる。
別に俺は良い奴じゃない。何なら性根は腐り気味だ。それでもオークを殺した時は不快感を覚えたし、だからこそ殺さずに済む相手をわざわざ殺そうとは思わない。
しかしその考えを他人に強要したい訳じゃない。牌谷さんのように、生きる為に敵に情け容赦を掛けないスタンスは素晴らしいと思うし憧れもする。
でも──
「はぁ? なんで? あれは全部踏み台だよぉ? もしかして階段昇る度に感謝したりゴメンねして生きてるの?」
──こいつは何か違う気がする。
その声には悪ぶった雰囲気も、嘲りのような含みも一切混じってはいない。純粋に俺の言葉に疑問を感じているらしい、彼女にとってはそれが普通なのだ。
俺は別に魔族に同情などしない。
しかしここに集まっていたのは魔王と星澪を支持する者達だ。これから利用する命とは言え、そんな者達に塵ほどの敬意や罪悪感すらも持てないこの少女は、きっと同族の人間に対しても仲間意識など持っている筈がない。そう強く思える。
その証拠に未来視での星澪は、牌谷さんが闘技場で戦わされている姿を笑いながら見ていた。当初は操られているからだと思っていたけど、そうではなかった事をもう知っている。
結局のところ、星澪にとって他者は人間でも魔族でも対して変わらないのだ。
大事なのはそれが自分の役に立つかどうか、邪魔になるかどうか、それだけ。
これがしばらく観察した俺なりの星澪の性格診断だ。
彼女は頭が良いのだろう、衝動的に見えて実は計算高い。そして他者を意のままに操ろうとする傲慢さに加え、情緒的共感性が欠落していると言ってよいほどの冷徹さも持ち合わせている。
これは所謂サイコパスの特徴、それも重度の。
そんな奴が一番持ってはいけないスキルを持っているのだから手に負えない。
それでも今は、星澪が何をしようとしている知る方が先か。
「これから、何をするつもりなんですか……?」
「そうだ、まだ言って無かったねぇ。この辺一体の土地をまるっと地球の、ていうか日本の土地のとある場所と入れ換えるんだよ。凄いでしょ!」
「は?」
「そうするとねぇ、この辺りにある三つの奈落迷宮をあっちに持っていけるんだって。要するにスキルの根源である女神像とダンジョンを日本に移植するってことらしいよ♪」
いやいや、確かに凄いけどその規模の話になると逆にこの程度の生け贄でどうにかなるのか?
そんな懐疑的な思いが顔にも出ていたのだろうか。半目で軽く睨んでくる星澪。
「もしかしてここに漂ってる程度の魔力じゃ無理って思ってる?」
「まあ……」
「大丈夫。このお城の真下にはねぇ、星幽炉っていう星のマナを吸い上げる施設があるんだ。そこから必要な魔力を造り出すんだよ。今からね」
星幽炉……闘技場から降りていった部屋にあったあの設備か。
思い出した途端、足元が揺れる。
「さあ、始まるよぉ。もう止められないからね」
楽しげに呟いた星澪に続くように、下から立ち上ってきた莫大なマナの光と思われる白い輝きが大講堂全体を包み込んだ。
「これが星の生命……マナか……」
暖かいような、安心するような、包まれていると安らぎを感じる光の奔流。
時の精霊と思われるオーロラのような光のベールは、下から激しく遡るマナの光と融合しながらその大きさを増していく。
しばらくその光景を眺めていたけど、そこからの事は覚えていない。
俺の異世界における記憶はここで終わりだ。
第一部、これにて終わりです。
何度も書くのをやめようと思いましたが、ブックマーク、感想、評価をくれた方々のお陰で書き終えることができました。
本当にありがとうございました。




