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どこか不審な雰囲気を醸し出すエルが、ゆらゆらと飛びながら向かう先にいるのは星澪だ。
彼女のところにいくつもりだろうか、何のつもりだあいつ。
エルに気づいた星澪はさっきまでの蔑みに満ちた目付きを緩ませ、何やら甘い表情を見せている。
「え、なにコレ? えー可愛いぃ!」
彼女は珍しく年相応な笑顔ではしゃぎながら、手の平を広げエルを迎えるようにその手を差し出した。
それを見たエルは嬉しそうにそこに着地すると、まるで喜び勇んで尻尾を振るワンコのように羽をパタつかせながら喋りだす。
「可愛いだナンて、アリガトウ。でもカナサちゃんの方がずっと可愛いんダヨ」
「え、喋ったぁ!」
「あのぅ僕エルって言うんだケド、君の使い魔にシテ欲しいナ」
「うんうん、するするぅ!」
いや「するするぅ」じゃねぇし、それ俺の使い魔だから。てかエルは何をやってるんだ? 明らかにおかしくなってるぞ。
牌谷さんも「エルちゃん、どした……」と引き気味な様子だ。
…………いや、ああなるほど。なんとなく解ってきたな。取り敢えずエルを呼び戻さなくては。
「エル! ちょっとこっち戻ってこい!」
「嫌だネ、僕はやっぱりクロみたいなモブよりカナサちゃんミタいな有能美少女の元で使い魔をヤルべきナンだって気がついてしまったんダヨ」
ちっ。おっといかん、つい舌打ちが。ダメだ、あれは早くなんとかしないと。
しかしこのままじゃ埒が明かんな、こうなったら強制送還だ。
『“使い魔召喚”を発動』
「え、あれ? 消えた!?」
突然、手の平から居なくなったエルに星澪が驚いている。
そしてエルの方は勿論、俺のすぐ目の前に現れた。
はい、すぐに確保。
また飛び出さないうちに握って動けないようにしておかなくては。
「んぎぎ、やめろヤメロ! なにするんダヨ!」
手の中から抜け出そうと必死にもがくエル。
こいつ出会った時と全く同じ反応しやがって、アホなことやってんじゃねえぞ……。
「おいエル、正気に戻れ……」
『救世の翼スキル、“アンチスキルコート”を発動、対象スキルの消滅に成功』
やっぱり、スキルを掛けられてた。
いや、「掛けられた」っていうのはちょっとニュアンスが違うな。星澪の感じからして「掛かってしまった」が正しいか。
「あれ、なんか意識がスッキリしたんダヨ」
「エル、今からはあんまり星澪を見るな」
「ナンで……いや、解ったんダヨ」
もう一度エルが星澪の手中に落ちてしまったらもう戻せない。
何故なら今のスキルの消滅でかなりの魔力を持っていかれてしまったからな、もう一回やるのは無理だ。流石はエクストラスキルと言ったところか。
星澪のスキルは恐らく……。
「お前のスキル──」
「はぁ? 『お前』?」
星澪の目付きが途端に険しくなる。
はい、すみません、調子に乗りました……。
「い、いえ、ほ、星澪さんのスキルですが、大体の検討をつけさせて頂きました……」
「へぇ、面白いわね。モブに発言権をあげるわ、言ってみなさいよ」
くぅっ、さっきまでエルと可愛らしくキャッキャウフフしてた人間とはとても思えない……。
「僭越ながら申し上げますと、恐らくは相手を自分の意思とは関係なく魅了してしまうスキルではないでしょうか? 対象は人間や動物は勿論のこと、精霊等の目に見えない霊的な存在に至るまで幅広く網羅。発動条件は星澪さんを凝視すること、かと」
ぬぅ、なんとも締まらん……。
それに横で聞いてる牌谷さんの眼差しからも、星のように煌めいていた羨望の色が失われつつある。
それでもだ。星澪にタメ口をきく勇気なぞ俺にはない。
まあそれは一旦置いておいて、これまでの情報を纏めてみよう。
一つ目、篭絡された魔王。
この異世界にきた当初、星澪含め全ての人間に能動スキルを行使する術はなかった筈だ。そんな場面があったなら他のエクストラスキルの持ち主も応戦できただろうし。
恐らくは俺と同じく寝ている間でも勝手に発動できるスキルなんだろう。
ルサーリアさんの毒で脳を破壊される前に、眠り姫の如く魔王を魅了したと見て間違いない。
何故なら、星澪のスキルはゲートをも操作できるらしいスキルだからだ。そんなの殺して奪った方がよほど有益で安全だと言える。彼女がいくら容姿端麗とは言え、そこを天秤に掛けるほど愚かな魔王には見えない。
二つ目、ノクスの言っていた「いくつもの属性を操る上位の魔女のようだった」という言葉だ。
これはもう明らかだろう、さっき星澪が口にしていたのを聞いたし。
きっと彼女は様々な属性の精霊を味方につけてその力を借りることによって攻撃や防御を行えるのだ。
それはまるで多種多様な魔法を使えるかのように見える事だろう。実際はただそう見えているだけだ。
とは言え強力なことに変わりはないのだけど。
三つ目、俺と同じ行動をしていたのにエルだけがスキルに精神を汚染された点。
俺は先の通り、性格上星澪に視線を向けても焦点を合わせる事はしないし合わせてもチラチラ見る程度だ。
しかしカメラ役をしていたエルはバッチリと彼女の姿を捉え続けてしまった事だろう。
星澪から何か仕掛けてきた素振りを感じられなかったし、俺とエルに違いがあるとしたらそこだ。
星澪のスキル発動条件が「彼女を見つめる」とかであるならこれで辻褄が合う。
以上の理由から星澪のスキルは自動か常態のとんでも魅了スキルだと予想できる訳だ。
「ふーん、まあまあ良いとこついてるんじゃない? モブの割りにはやるわね」
「お褒めに預かり光栄です……」
………………って、んなわけあるかぁクソ女ぁ!
せめて心の中でくらいは語気強めに言ってみた。




