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異世界召喚されたんだけど、なんか様子がおかしい  作者: よく知らんロボ


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 短く鋭く「シュッ」と吐き出された息と共に突き出される牌谷さんの拳。


 脇を閉め、力強い踏み込みと腰の回転から流れるように繰り出された右ストレートは実に胴に入ったものだ。


 相当殴り慣れているらしい、いやそれどころか何か格闘技をかじってることが見て取れる牌谷さんの所作。


 それでも顔色一つ変えない星澪。


 少し向こうで座って観戦している魔王も心配する素振りすら見せてはいない。むしろ俺と同じく非常に興味深そうだ。こういう戦いは地球、異世界問わず人気があるという事だろうか。


 それにしてもいくら婚約解消された直後とは言え、元婚約者がぶん殴られようとしていたら普通ならもう少し取り乱すものだ。

 ゆえに落ち着き払った魔王の様子から、星澪がやはりエクストラスキルを与えられた実力者であるということが伺い知れる。


 などと色んな事に気を取られていたその刹那、星澪の唇が僅かに動く。 


「助けて、精霊さん……」


 ん? 精霊? 極悪美少女の口から不意を突いて出てきたメルヘンワード。


 それは強化聴力でなければ決して聞き取れないような声にもならない小さな囁き。


 恐らく牌谷さんにも聞こえていないだろう。いや、そもそも星澪への鉄拳制裁に一極集中している彼女の耳には、俺の声でも届かないかもしれない。


 そんな牌谷さんの渾身の紅拳が、あわや星澪の顔面にクリーンヒットすると思われた次の瞬間だった。


 ドゴンッ──という、大型のスレッジハンマーをコンクリートへ強烈に叩きつけたような重い衝撃音が響き渡る。


 音からして、とても人間に向けてはなっていいような威力の代物ではないような気もするけど、相手はエクストラスキル持ちだからこそ遠慮はいらないといったところだろうか。

 いや、普通にぶちギレてるだけか……。


 しかしその一撃は星澪へは届いていない。彼女に危害を加えることは許さないとばかりに、透明な壁が攻撃を阻む。


 ルサーリアさんの使っていた魔力障壁の類いだろうか。


「あれぇ、当たらないねぇ」


 上目遣いで煽るように口にする星澪。

 しかし直後に、ビキッ──と鳴り響いた、極厚強化ガラスにヒビが入るような亀裂音に彼女の顔が曇る。


「はっ……? なんで壊れかけてんのよ……。どんな腕力してんの、このゴリラ……」


 何かと思えば、透明な壁が拳を受け止めた箇所を中心に崩壊しかけているらしい。

 余裕の態度でほくそ笑んでいた星澪もそれを目にしては流石に顔面蒼白、そのひたいから一筋の冷や汗が頬へと伝う。


 これ、牌谷さんの手にした獲物がノクスに使った巨大ハンマーだったらたぶん星澪は死んでたな……。

 あれを持ち出さなかったのはせめてもの優しさか、いや普通に理性がちゃんと仕事をしただけか……。


 だけど驚いているのは牌谷さんも同じようだ。


ったぁ……。なにこれ……」


 驚愕したその顔から、彼女は彼女で星澪を殴れると確信していたようだ。

 ノクスの堅牢な体毛を強引に叩き伏せた牌谷さんだ。相手が何かしらの防御スキルを使用したとしても貫く自信はあったのだろう。


 星澪もその動揺を見逃さない。


「潰して……」


 彼女がまた何か囁くと床がクレーターのように抉れた。しかしそこには既に牌谷さんはいない。


 反撃を警戒していた彼女は既に後退。


 そして即座にファイティングポーズを取り直す。両手を顎の高さに構え、やや腰を落とし、重心を前に置いた前傾姿勢。ボクシングのクラウチングスタイルってやつだろうか。ゴツゴツした操血ナックルグローブも相まって非常に格好いい。


 かたや立ち尽くしたまま表情を険しくする星澪。


 二人はまたも視線を交錯させたまま硬直するが、その均衡を崩したのは牌谷さんだった。


「お前、やるね。ただの生意気なチビじゃないんだ」


 それに応じるように星澪も口を開く。


「あんたこそ、アタシの結界にヒビが入ったの初めて見たわ」


 二人のやり取り、どっかで見たことのあるようなシーン。そうだあれだ、バトル漫画で強者同士がバトッた後のやつだ。


 そんなことを考えながらエルカメラを構えていると、それに気付いた二人が示し合わせたように声をあげる。


「あんた誰の許可取って撮影してんのよ!!」

「テメなに撮ってんだゴラァ!!」

「はいぃ! す、すみませぇん!」


 鬼の咆哮のような耳をつんざく二人の怒号。ビビった俺は、清流の如く洗練された動作で美しい土下座を決める。

 エルはと言えば元の姿に戻り、我関せずと決め込むつもりかパタパタと小さな羽を動かしどこかへ飛んでいった。


 フンスッと腕を組んだ仁王立ちスタイルから、ゴミを見るような目で俺を見下す星澪。それとは対照的に牌谷さんは口元に手を当て、「しまった……」といった顔で目を白黒させながら俺の方に駆け寄ってくる。


「違うの、違うから! 今のはいつものクセで! クロくんに言った訳じゃないからね!? ね!?」


 涙目で平伏したままの俺を起こし、両手を握りながら必死に釈明する牌谷さん。怖い一面を目の当たりにしたものの、やっぱり可愛いものは可愛い。ある意味ギャップ萌え。

 ていうか顔が近くて前が向けない、それに涙目も見せたくないな……。


 しかしいつものクセって何だろうか……。撮影者を怒鳴りつける人間なぞ、某警察密着ドキュメンタリーか不良同士の格闘対戦配信チャンネルくらいでしか見たことはない。


 考えるに彼女は喧嘩をしている場面をよくスマホで撮影されていて、その度に盗撮者を恫喝していたんではなかろうか。…………しかしそれが癖になるくらい喧嘩ばっかしてたって、牌谷さんは一体どんな修羅の世界で育ったんだ。日本だよな……。


 でもこれに関しては無許可で撮影していた俺が悪い。手に持っていたのはエルだけど、パッと見は完全にスマホを構えた盗撮者だ。

 ちゃんと顔を上げて謝らねば。


「い、いえいえ、牌谷さんが悪くないの解ってますから。俺の方こそ勝手な事してすみませんでした!」

「ううん、大丈夫だよ。ホントにウチは怒ってないからね。ていうかさっき持ってたのってエルちゃん?」

「はい。あれ、そういえば……」


 そうだあいつ一人だけ逃げやがって、どこ行きやがった。

 そう思い、周囲を見回して見つけた浮遊するエルの背中。なんだあいつ、なんか様子がおかしい。

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