85
つかつかと俺の前に出てきて星澪の顔を上から見下ろし、鋭い目付きをさらに鋭くしてガン飛ばす牌谷さん。
星澪も負けじと眉間にシワを寄せ、下から睨み返している。
まさに一触即発。
ここは少しの間、彼女にお任せしようか。俺には星澪の相手は無理過ぎる……。
『絶影を解除』
『身体強化【S+】を解除』
そしてまだ何があるか解らない、今は省エネモードにしておこう。ここで止めておけば三種強化モードをまだあと三、四分くらいは発動できるはずだ。
なんて考えてる間にも数秒続いていた睨み合い、その口火を切ったのは星澪だ。
「ねえ、今なんか言った? おばさん」
「あぁ? 幼児体型のクソガキが舐めた口聞いてんなよ?」
「はあ? 発展途上って言葉知ってる? あんたあっちの陰キャキモサピエンスより馬鹿そうだけど生きてて大丈夫そ?」
「カッチーン。ウチのこと言うならまだいいけどさぁ、クロくん悪く言うのやめろやチビカスおい」
互いのおでこがくっつくかと思うほどの距離で、巻き舌混じりに凄みまくる牌谷さん。
なんと言うか初めて見る一面だ、元ヤンか……? いや十八歳だから現役でもおかしくない年齢ではあるか。
魔王に言い返していた時も十分迫力あったけど、あれでも抑えてたってことか……取り敢えず恐すぎる……。
そんなイカつい彼女を目の前にしても、星澪は星澪で全く怯む様子がない。何なら「ウィークポイント突いちゃいましたぁ?」くらいの薄ら笑いすら浮かべている始末。
ひぃぃ、マジでどっちもおっかないぃ。
でもビジュアルだけはマックス過ぎるキャットファイト……、これは動画に納めなくては。
現代人の悪い癖だけども、観客が一人では非常に勿体ない。後世に残さねば。
いや、ダメだ。そもそもスマホがない。
…………そうだ!
『エル、スマホみたいな形になれるか?』
『ん、スマホ? ああ、地球の多目的通信情報端末か。僕の形は特に決まってナイからネ、四角くナルくらい楽勝なんダヨ。ホラ』
そう言うとエルはパタパタと羽ばたきながら俺の手元に飛んできて、長方形につぶらな目と小さな羽のついたスマホっぽい形に変形した。
『エルならこの光景を鮮明に録画できるだろ』
『なるほど、悪くない案なんダヨ』
クックック、エル、この女好きめ。
俺はエルカメラを縦持ちに構えて二人の側面に回り込んだ。
よし撮影開始だ。
「え、あれ、あれあれ、もしかしておばさんアレのこと好きなの? 見た目完全に陰キャ、チビ、ブサイクの非モテ三種の神器を全部装備しちゃってる感じだけど大丈夫そ? ちょっと待ってよおばさん結構美人なのに男の趣味悪過ぎるってアッハハハハハハハハハハハ!」
星澪、腹を抱えて爆笑。
誰が非モテ三種の神器男やねん……!
い、いやいやそれよりも。牌谷さん……そうなの!?
「いや、別に好きとかじゃ……ないし……」
急にトーンダウンする牌谷さん。
ですよねぇ……。うん、知ってた知ってた。
「いやでも別にクロ君はブサイクじゃないから! 人並み外れて地味なだけだから! 大体男は顔じゃねえだろうが!」
「えーやっぱ好きなんじゃーん! せっかく美人なのにアレが相手じゃ遺伝子の無駄遣いだよぉやめときなってぇ」
あれぇ、二人が喧嘩してる筈なのに何でさっきから俺のメンタルがゴリゴリ削られているんだろうか……。
あれ、なんか視界が滲んできたな……。
堪えろ、俺。ここで泣いたら負けだ……。
「いや、だから、好きとかそう言うのじゃなくて……尊敬できるって言うか、凄い人って言うか…………あぁもうダメだ! このクソガキぶん殴る!!」
とうとう牌谷さんがぶちギレたようだ。
舌戦(?)は星澪の勝ち、なのか……。
操血を右拳に纏わせ、形成したのは西洋手甲のような赤いナックルグローブ。
あ、結構本気で殴るつもりだ。
「やれるもんならやってみなさいよ」
その様子を見ても、星澪は相も変わらず物怖じ一つしていない。
「てめぇクソガキ、ウチがやらないと思ってる? 女の顔なら殴り慣れてっから」
なるほど、今の発言で牌谷さんはヤンキー確定だな。
「たかが白スキルがエクストラスキルのアタシに敵うとでも思ってんの?」
「今のウチはねぇ、ちょっと凄いよ!!」
うん、確かに。強化状態の牌谷さんはエクストラに匹敵すると言っても過言じゃない。さてこれどうなるかな。
止めた方が良いんだろうけど、うーん最後まで見たい気もするなぁ……。
牌谷さんは怒号と共に腕を引き、拳を繰り出した。




