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速さで圧倒し、鉈で牽制しながら幻影刃で削る。
今はとにかく魔力の続く限り斬って斬って斬りまくる。
牽制とは言え、鉈による攻撃も当てる気は満々なのだけど全てきっちりと見切られ防御されている。
ここは肉体へのダメージも与えて体力と魔力の両方を削りたいところなんだけど、そうは問屋が卸さないらしい。
激しく打ち鳴らされる鐘のように、金属と金属のぶつかり合う音が部屋中に木霊する。
「ぐっ、この徐々に広がる疲労感。魔力欠乏か……。その攻撃、ただ擦り傷を与えるものではないな……!」
「ご名答、でも反撃の機会は与えないっす」
油断大敵、手を緩めたら何をされるか解ったもんじゃない。
一見俺が押しているように見えるけど、こちらの魔力が尽きる前に魔王を消耗状態にして呪縛を発動させないと一瞬で形勢逆転だ……。
「そうか、ゴリ押しで俺の魔力を削りきってから止めってとこか……」
はいそうです。なんて、察しの良い魔王に言う必要もない。
どうやらこっちの狙いはバレているようだけど関係はない、あっちに反撃の手立てが無いなら知られていようがいまいが同じことだ。
だけど、ここで妙な違和感を覚える。鉈の手応えと衝突音がさっきと違うのだ。
「そろそろか……」
なんだ、なにかスキルを発動されたか?
狙いが解らない。でも、それも今は気にしてなどいられない。削りきれば勝ちだ……!
そう思った次の瞬間、魔王の段平に当たった鉈は、ガキィン──と一際高い音を鳴らし砕けた。刀身は風車のように回りながら無情に飛んでいく。
「なっ……! 折れた!?」
「ここにきて武器の差が出たな小僧」
これを待ってたのか、まずい……。
咄嗟に飛び退いて魔王と距離を取る。
勿論、武器が無くとも幻影刃は使用できる。普通に近づき徒手空拳で殴りつける形でも魔王の魔力を削ることは可能だ。
だけど今までの猛攻は、鉈による深手を避ける為に魔王が防御に徹してくれていたからこそ成立していたに過ぎない。
ただ速いだけの奴が素手で殴り付けてくるのみなら、手練れである魔王なら如何様にも対処できるだろう。
恐らくはカウンターを合わせられて真っ二つと言ったところか……、肉も切れずに骨を断たれてしまう。
ヤバイ……、考えろ、考えろ、考えろ……。
絶影を解除するか……。いや、魔力消費量が減るだけの延命処置にしかならない上に、折角撃ち込んだ魔弾が無効になる。
残る一つのエクストラスキルに賭けるか……。それもダメだ、今までの経験上エクストラスキルの確認には情報処理による脳のフリーズが数秒から数十秒発生することが解っている。今の間合い、魔王なら二秒もあれば止まっている俺の首と胴体をサヨナラさせるくらい訳も無いだろう。
逃げるか……。馬鹿か俺、それは最も有り得ない。牌谷さんはどうする。
「今さら無様に逃げ回ってくれるなよ! その時は小娘の方を先に殺す!」
だよな……。そりゃそうだ。
視線の先では言葉と共に魔王が段平を八相に構え、腰を落として踏み込みに力を込め始めている。いよいよ斬り掛かってくるつもりのようだ。
ならアンチスキルコート……、魔王の攻撃はスキルではない。
未来視……、現在使用不可だ。
潜影……、消えるまで三秒掛かる。
エル……、そもそも戦闘向きの使い魔ではない。
あれ、詰みか……?
こんな時なのに牌谷さんと恋人繋ぎをした人生のハイライトシーンが頭の中に鮮明に写し出されてくる。
あ、これ走馬灯ってやつか……。
馬鹿か諦めるな、何か考えつくまで、魔力が尽きるまで避けまくれ……!
全速の踏み込みで魔王が迫ってくる。
避けるだけなら安牌。いや、避けた際にカウンターの幻影刃を当てるか……。だけど自分の動きよりワンテンポ遅れる幻影刃を回避行動の中に組み込んだ場合、いつどこで戦況が破綻するか解らない。
逡巡する俺目掛けて、魔王が段平を振り上げようとしたその時だ。
遥か上方から、パリン──と音がした。天井のステンドグラスの硝子が割れる音だ。
「絶体絶命ですね。一つ、借りは返しましたよクロ殿」
微かだけど、強化聴力が確かに拾った声。
そして、カン──! という小気味良い乾いた音に目をやれば、俺の足元には見覚えのある物が突き刺さっていた。
それは柄尻に輪っかがあり、逆反りの刃が設えられた特徴的な形状の武器。
地球のカランビットナイフとよく似た、紛れもなく俺の首を千回切り落としたあの黒刀。
ノクス……ルサーリアさんを乗せて城外へ逃れたはずじゃ。
わざわざ戻ってきて、魔王に操られないよう最大限距離をとった上でサポートしてくれたのか。そしてタイミングもこの上ない、どこまでシゴデキイケメンなんだ畜生!
「それは……! ノクスの黒狩か!!」
へぇ、そういう名前なのねこれ。
関心に耳を傾けながらも、電光石火の如く目の前の短刀を引き抜いた。




