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その紫の液体はメスフラスコのような形の透明な瓶に入っている。置かれている数は四つだ。
いや、つい今しがた抽出されたもう一つがあった。たぶん斉藤さんのだ。
最後の一つは抽出装置と思われるものに取り付けられたままだったから俺はそれを取り外して、すぐ傍に置いてあったコルクで蓋をした。
つまり全部で瓶は五つ。
斉藤さん以外の容器には読めない文字でそれぞれ違う何かが書き記されている。
おそらくこの液体だな。さっき二人組が「飲んでスキルを得る」って話をしていた物の正体は。
見た目の感じからスキルポーションとでも名付けようか。
しかし、話からして希少価値が高いと思われる紫のスキルポーションをこんな雑に置きっぱなしとは。
見ればすぐ脇には重そうで頑強そうな収納箱が据えられている、ここにしまっておかないといけない物だったんじゃなかろうか。
逆に何か入ってないかな?
試しに収納箱の取っ手を持って開けようとしてみたが押しても引いてもびくともしない。
よく見れば鍵が何重にも取り付けられているから当たり前だった。
なんか開けるだけでも大変そうな箱だな。
どうもあいつら面倒臭がって出しっぱなしにしたっぽいな。
まあそういうことをやりそうな奴らだったしな。
人選はしっかりやれよイケオジ。
よし、ということでこの紫スキルポーションは貰っておこうか。奇貨居くべし、と言うし。
でもこの数はちょっと荷物になるな。
何か丁度良いものはないかと周囲を見回せば、すぐ近くの壁に革のショルダーバッグが掛けてあった。それにスキルポーションを入れて肩に掛ける。
鞄が掛けてあった横には、革製の鞘に納められた刃渡り五十センチ程の剣鉈も掛けてあった。
良く手入れされているようだ。
なのでそれもついでに貰っておいた。武器は絶対にあった方がいい。
剣鉈の他にも鋸や大鋏など色々あった、要するにこれらは人を解体してきた道具なのだろう……今は忘れよう。
逃げる準備はひとまずできたな。
転がっている人達には悪いが、俺じゃ多分助けられない。見捨てて逃げることには酷く居たたまれない気持ちはあったけど、どうしようも無いと自分に言い聞かせるしかなかった。
部屋を出ようと扉へと近づく。
いきなり空けて出るのは怖いので、お誂え向きな覗き窓から外を確認してみた。
外は石造りの壁に囲まれ、少し先には登り階段が見える。
陰鬱で薄暗いとは思っていたが、外の様子からしてここは地下かなにかなのだろうか。
そこから視線を動かし、目にした光景に慌てて覗き窓から離れて息を殺した。
ダメだ……。
外には少し離れた辺りに見張りの兵士があくびをしながら立っている。それも一人だけではなかった。
みんな総じてやる気は無さそうだったが、見つかれば只で済む筈がない。
さすがに絶望してへたり込んでしまった。
会社なんかは末端の社員の様子を見れば経営者の顔が浮かぶというが、兵士や解体作業員の感じからしてこの国の王は、ダメそうだな。あのイケオジ、顔だけか……いや声も良かったわ。
そんなしょうもないことが頭に浮かんでは消えていく。
いやいや待て、正気に戻れ俺。現実逃避している場合じゃないって。
ここでふと目に入った鞄を見て、少し思い悩んだ。
この状況を打開し得る可能性がある行動はもう一つしかない。
これだ、紫スキルポーション。試しに一本飲んでみるか……。
だが心配事が二つある。
一つ、俺には毒物耐性スキルがあるが、飲んだら死ぬらしい紫スキルポーションを毒物と判別してくれるか解らないことだ。しかし薬だって広義で言えば毒物になることがあるのだから耐性が発動する可能性はゼロではない筈だよな。
二つ目は魔力の残量だ。さっきレベルがいきなり二つも上がるような毒を分解したわけだから、俺の魔力の残りは大分減っている筈。
この全身のだるさがその証拠と言える。
仮にスキルが発動しても魔力不足でスキルが止まり死ぬなんて事も十分に有り得る。
あ、ちなみに心配事はまだあった。不味そうなのと人間由来で作られた飲み物って辺りだ。いや、まあ全て考えないようにしよう。
だってそんなことを心配している事こそが今は愚の骨頂かもしれない。このままではどのみち死ぬんだから。
それに斉藤さんみたいな酷い殺され方をされるくらいなら、いっそのこと毒で死ぬのも悪くはないのかもしれないし。
でもやっぱ無理……なんて決まらぬ覚悟を置き去りにして、鞄からスキルポーションを一つ取り出し一気にあおった。




