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『スキル:絶影』
『ランク:眷属』
『フォーム:能動、補助、連動』
『闇の手スキル。身体能力がスキルに適応できる水準に達している場合のみ使用可能。発動すると脳の身体保護機能を解除すると共に、使用者の魔力を特殊魔力へと持続的に変換し続ける。スキル発動中は常に特殊魔力による外部補助を得られる』
『絶影』、分かりやすく言えば火事場の馬鹿力と魔力製パワーアシストスーツを合わせたような補助スキルだ。
これが外側からアシストしてくれる特殊魔力……。
発動と共に現れたのは全身を縁取るように漂う仄黒いオーラ。
一瞬でも速く彼女の元へと、一歩踏み込む。
それは牌谷さんや魔王のように地を砕くような爆発的力強さとは違い、タン──という軽やかな音を奏でるのみ。
しかしその拍子抜けするほど力ない音からはとても信じられないような高速移動、景色を早送りするような感覚。
予想を遥かに凌ぐスキルの出力に驚愕させられる。
いや驚愕している暇もなかった、何故なら──。
「クロ君!?」
「は、速っ!? じゃない、牌谷さん大丈夫ですか!?」
踏み込んだ次の瞬間には牌谷さんをお姫様抱っこで掬い上げていたからだ。
振り下ろされたアヌギスの尾は床にめり込み、鈍く盛大な衝撃音を大講堂に響かせるのみ。
速い、どころじゃない。
強化された動体視力がなかったら止まるタイミングも何もあったもんじゃない。
まるで進行速度百倍のアクションゲームをやっているような感覚だ。
恐らくこの『絶影』は、常軌を逸するくらいの鋭敏な感覚がないとまともに使いこなす事ができないスキルだと思われる。
なんなら身体強化も発動しているから余計にブッ壊れた出力になっている可能性もあるけど。
でもなるほど、感覚強化は普段から便利なスキルではあったけど、最も重要な役割はこの絶影の制御だったわけか。
「すみません、ちょっとここで休んでいてください。あとはできるだけ頑張ってみますから、任せてください」
「う、うん。ありがと……」
そう告げて彼女を床に下ろし座らせる。うん……俺がやりたかった格好いい主人公のムーブだ、これは……。
「あと、これを……」
ついでに鉈でつけた傷から俺の血を飲んでおいてもらった。
「エル、すぐに牌谷さんの健康診断を頼む」
「解ったんダヨ」
周囲の毒素は既に体内で分解を終えているから、俺の身体はアヌギスの毒の免疫を獲得しているだろう。ならこの血が牌谷さんにとって多少の解毒効果があることはグール戦の時に証明されている。
エルのチェックで他に異常がでなければ、先祖返りの彼女なら休んでいればこの応急処置でも今は十分なはずだ。
案の定、若干の顔色の戻りから体調の回復の兆しが見て取れる。
「ごめん、肝心なとこで役に立たなくて……」
「そんなことないですよ、牌谷さんがダメージを与えてくれていたんでアヌギスの方はもう終わりましたから」
「えっ、どゆこと?」
その言葉に首を傾げる牌谷さんもまた可愛い……。
いやいや、そんな場合じゃなかったアホか俺。
一連の流れをまたも興味深そうに眺めていた魔王が泰然とした歩みでこちらへと向かってくる。
そしてアヌギスの横に立つと まじまじと俺を見てくる。
やはり初見のスキルには目がないらしい。スキルオタク確定だ。
「身体を包む黒い輪郭は魔力か……? 踏み込みや移動の異様さからみてただの強化スキルじゃあないな、速度特化の強化スキルか……」
「さあ、これは俺も初めて使うんで種明かしは出来ないっすね」
「そうか、なら予定通り半殺しにして喋らせればいいだけだ。ここからは二対一だな」
「それは、どうすっかね」
「なに?」
魔王の横に並び立つアヌギス、その身体には先程までは無かった不気味な呪印が刻まれている。
呪印は徐々に彼女の体を蝕み、やがて全身を多い尽くした。
「なんだこれは……」
唖然とする魔王を尻目に、アヌギスは力なくその場に倒れた。まるで麻痺しているかのように小刻みに体を震わせる様から死んでいないのは解る。
いやアンデッドだから死っていう概念はないのか、取りあえず戦闘不能ってことだな。
無論これは俺の仕業だ。
『スキル:魔弾』
『ランク:眷属』
『フォーム:能動、呪縛』
『闇の手スキル。“絶影”発動時のみ使用可能。特殊魔力を凝縮し呪いの弾丸に変え、対象に撃ち込むことで発動準備を完了する。被弾者が疲労やダメージにより体力を大幅に消耗すると発動。体内に侵入した特殊魔力の呪いが対象を一定時間行動不能にする。弾丸自体には殺傷能力はない。絶影を解除すると撃ち込んだ呪いも解除される』
分かりやすく言えば、疲れや大怪我で消耗した奴を即捕縛するスキル。牌谷さんを抱え上げたタイミングでアヌギスに魔弾を撃ち込んでおいたのだ。
彼女にあれだけ派手に切り刻まれて消耗していない訳がない。
本来なら魔弾を撃ち込んだ後ダメージと疲労を蓄積させないといけないのだろうけど、お陰でスキルが即座に発動してくれた。
「ついでに止めっす」
『闇の手スキル、“死体処理班”を発動』
長い舌がアヌギスを巻き取りあっという間に黒い亀裂へと引きずり込んでしまった。
あの状態なら死体処理班で速攻成仏コースが可能。やらない手はない。
でも、いや、しまったな。アヌギスは猛毒持ちだ、またお腹壊すかも……。
ゴメン、緊急案件だから許しておくれ……闇の魔獣。




