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「今のを躱すか、タイミングは完璧に合わせたし不意を突いたつもりだったんだがな。お前、ヒョロそうに見えて意外とやるな」
「……………………」
そりゃどうも、そんな軽口が出そうになって思わず口を噤んだ。動きを悟られている以上は危なくて返事なんか出来はしない。
それにしても不意を突いた、か。確かに魔王の予備動作からは攻撃の気配が感じ取れなかった。いつの間にかアイツの段平が俺の目の前を通り過ぎたと言えばいいだろうか。
格闘技や武道なんかでは相手に攻撃の初動を悟らせないようにするため予備動作を他の動きに溶け込ませ、突然攻撃が飛んできたように錯覚させる技術があるとどっかで聞いたことがある。今のがそれだろうか。
この魔王の言葉で先程自分が無意識に行った回避行動の理論がなんとなく解った。どうやら俺の感覚強化が聞き取っている筋肉の軋む音とは不覚筋動の音だ。
不覚筋動とは、人間が次に起こす行動をイメージしただけで無意識のうちに筋肉が動いてしまう現象のこと。
ダウジングやこっくりさんなんかで物が勝手に動く現象はこの不覚筋動によって自身や他の誰かが無意識に動かしているからなんだそうだ。
奴の攻撃の初動に気づけなかった俺が咄嗟に退がることが出来たのは、熟達した身体操作で予備動作を隠す魔王の動きと、不覚筋動の音から無意識に読み取った動作予測の齟齬に違和感を感じたからだと思う。
一言でいうなら分析と直感の不一致って感じだろうか。
つまり達人がどれだけ卓越した所作で攻撃の予備動作を隠蔽しても、俺の感覚強化は不覚筋動の音によってそれを見抜くことができる。ノクス戦で死にまくった賜物だな。
そしてこれは収穫だ、自分の能力への理解度は高ければ高いほど良い。さっきのまぐれに再現性が生まれるからな。
なんてちょっと得意気に語ってはみたけど、魔王の方はどうやって俺の動きを読んでいるのかは解らない。
感知スキルでないならあとは何がある……。
「どうした、動かないのか。潜伏スキルが看破されてビビったのか?」
「……………………」
悔しいけどその通りだ。それに次は何をすればいいのかまだ考えついていない。
「お前のそのスキル、透明になるというのとはどこか違うな……」
またスキル分析か、こいつ……。
「消えた途端に心臓の音から呼吸の音、気配、全てが薄くなったと感じたからな。透明になるだけならその辺は誤魔化せない筈だ。存在を消すスキル……、いや目の前にいても気づけない程に気配を薄くするスキルってところか」
「……………………」
この距離感で心臓や呼吸の音が聴こえるってことはただ耳が良いってだけじゃなさそうだ。感覚強化がエクストラスキルなら、その下に聴覚強化や視覚強化があってもおかしくはない。
なるほど、潜影で限りなく薄めた生体の気配を強化した聴覚か何かで拾われてるのかもしれないな。
「だんまりか、まあ無理もないな。じゃあ半殺しにして聞き出すとするか」
来る……。
魔王は段平を両手に握り、正眼に構えると同時に斬りかかってくる。
その速さは牌谷さんにも引けを取らない、というかさっきより数段早い。こいつ身体強化スキルも使えるらしい。
いくら感覚強化があってもこのままじゃ殺されるのは時間の問題だ。今は未来視もない、ならこっちも──。
『身体強化【S+】発動』
感覚強化に身体強化、魔王の一人スキルコンボに俺も習ってみた。
魔力の消費量は増えてしまうがその効果は絶大。今までの身体が遅れて動く感覚は一切無くなり、思う通り自在に動いてくれる。逆に違和感を感じる程だ。
そして魔王の鋭い斬撃は全て、轟音と共に空を切るのみ。
身体強化スキルか。俺自身とは相性が良くなかったけど、感覚強化との組み合わせは相性がメチャクチャ良いらしい。これは凄い発見だ。
「なんだ、動きが良くなったな」
「こっちも本気っすからね」
「ほう、急に強気だな。身体強化の類いでも発動したか」
まだまだ余裕の魔王、分析力も健在だ。
だけど、俺だって牌谷さんの後ろに隠れてばかりはいられない。ラスボスくらいは俺自身で倒してみせるさ。
と意気込んでみるけど攻勢に移る為にはどうすればいいのかまだ考え中、今のところ防戦一方だ。
魔力が尽きたら終わりの俺だから決着は急がなくてはならないのだけど、魔王の嵐のような攻撃のせいでこの短い鉈ではこちらの間合いまではなかなか攻め込むことができない。
「どうした、逃げるばかりか」
「そっちの攻撃も当たってないっすけどね」
「ハハハ、久しぶりに面白い奴に会えたな!」
どうする、何か決め手が欲しい……。




