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異世界に来て学んだ事は色々ある。その一つ、殺し合いは基本的に先手必勝だ。そりゃそうだろう、先に負傷した側は万全ではない状態からのスタートなのだから。
何なら初撃で死ぬことだって有り得る。
両者に余程の力の差がない限り、後手が勝敗を覆すことは難しい。
そういう意味で牌谷さんの戦いは最高の出だしと言える。相手が致命傷にすら怯むことの無いアンデッドということを除けば。
「お前の召喚、見覚えがあるな……」
激しい攻防を見せ始めた牌谷アヌギス戦とは違い、こちらはまだ動静を保っている。
魔王は構えを解き、考えを巡らせ過去を探っているようだ。
俺も若干赤面しながら先程の二つの失敗を反芻している。
一つ、牌谷さんのお陰で結果オーライとは言え「お釈迦にしてやるぜ」なんて啖呵を切っといてこの様は流石にちょっと恥ずかしい。魔王があんまり気にしてなさそうなのが救いだな。まあこれは失敗と言うより失態か。
もう一つはなぜ大きなご飯があるにも関わらず闇の魔獣が出てきてくれなかったのかだ。
色々考えたけど、これしかしっくりこなかった。
非常にしょうもないが、答えは恐らく「大人しくて恥ずかしがり屋」だからだと思う。
そう言えばスキルの文言に記されているのを思い出した。
グール戦の時、牌谷さんは気絶していて見ている人間は俺しかいなかった。
それに辺りは照明もなく真っ暗、明かりと呼べるものは悠然と輝く広大な星空くらいのもの。
逆に大講堂は煌々とした照明が幾つも取り付けられ昼間のように明るい、そして見ている者達も四人はいる。たった四人とは言え、あの時に比べれば多いっちゃ多い。
ここにきて闇の魔獣の特性は大体掴めてきた。だからこそ残念でならない。
あれだけ大量のグールを秒で一掃する攻撃力、生ける猛毒とも言えるルサーリアさんを食べてもお腹を壊す程度の耐性、先程のアヌギスの鞭打の如き強烈な一撃にも耐える耐久力。
多分だけど闇の魔獣はアヌギスに引けを取らないくらいの強さを持っている。
しかしこの最終決戦の場ではその力を発揮にする事はないだろう。
なら次はどうする……考えろ、俺。
頭をフル回転させている最中、魔王の方は思い当たったように口を開いた。
「そうか、サリーの死体を拐われた時だ。となると抽出部屋の作業員を消したのもそれか。アヌギスにしか使用しないとこを見るに死体や死人に干渉するスキルってとこか。どうだ、いい線いってるだろ」
「さあ、どうっすかね……」
その答えを聞いた魔王はまたも鬼のような形相で凄みながら、重く低いがなり声で問い詰めてくる。
「てめぇ、正解かハズレかくらい言いやがれや……! 気になるだろうが……!」
「だ、だいたい、当たりっす……」
顔こわっ……、そして面倒くせえ……。
気圧されてつい答えてしまった。陰キャとはヤンキーの恫喝には抗えないものなのだろうか、我ながら情けない……。
ま、まあでも闇の魔獣はもう呼び出さないし別に教えたところでなんの問題もないし。
自分にそう言い聞かせてみるけど、やっぱなんか悔しいな……。
「そうかそうか、初めて見るスキルはどうにも気になってな。──むっ……また消えたか」
『闇の手スキル、“潜影”を発動』
こいつスキルオタクか。
ゴツくて脳筋っぽい武器振り回してるくせに、見た目と違うのはお前だっつうの。
そしてビビらせてくれた借りはきっちり返す。
ノクスのせいで忘れてたけど、こと戦闘において潜影ほど強いものはなかなかない。
先手必勝の要は相手に攻撃の機会を与えない事だからな。
まずはオークの時のように背後からだ。
後ろから人間で言う腎臓の当たりを狙う。
本当なら心臓を狙いたい、場所も解ってる。人間よりもやや下で少し右側寄り、胴体のほぼ中心といったあたり。
強化聴力が魔王の鼓動を正確に捉えてくれるから位置は完全に把握しているが、軽鎧の胸当てが邪魔をしてその場所は狙えない。
だけど致命の一撃が狙えなくても重傷を負わせるだけでこっちは有利になる。
ヒリつく空気の中、それでも魔王は見えない敵に狼狽えも戸惑いもしないようだ。
「なるほどな……」
それどころか落ち着き払った様子でそう呟くと段平を両手で握り、牌谷さんと同じく車の構えを取り目を閉じた。
なんだこいつ、心の眼でも開眼するつもりか……。それとも感知を伴う何かしらのスキルか。いやそれはない、あるなら未来視のあの場面で使っている筈だ。
凪の海より静かに、完璧に音を殺して歩み寄る。そしてその背中に一突き、いや刺せるだけ刺してやる……そう思ったけど身体が前に進まない。俺の身体の全神経が退がれと言っているのだ。
この刹那の感覚はノクスの時に散々味わったやつ。それが感じ取れたのは視野を広く捉え魔王の全身の動きを意識するように観ていたからだ。前にも言った『観の目』ってやつだ。
魔王が動き出そうとする前の微かな重心移動、その起こりに生じる筋肉の軋み、そこから繰り出すことの可能な攻撃の軌道パターンを幾つか予測し相手の狙う箇所を汲み取る。
俺が回避に至るまでの一連逃れはこんな感じだ。今の俺の特技と言っていい。
もちろん感覚強化無しでは絶対に不可能だけど。
そんなノクス戦での学びがここでも活きた。魔王の薙ぎ払いは空を裂く轟音と共に俺の鼻先を掠める。
あ……あっぶねぇ……。
あのまま刺しにいってたら頭にドンピシャだった。こいつ見えてんのか、いや目は閉じたままだ。マジで心眼とか言うなよ、おい……。




