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次の広大な部屋ではイケオジの話通りに、山のように食事が盛られたテーブルが視界の遥か先までズラリと並んでいた。
凄い料理の数だ、百人ではとても食べきれないだろ、これ。
そのうえ酒も飲み放題だという。
まあ味は現代日本に及ばないかもしれない、けど主だった料理は肉だからいけるだろう。
肉は塩振って焼いただけでも旨いもんだから不味いはずがない、そうであってくれ。
しかしなんというか、明日帰るにしてもこんな非日常を体験できたのはそれなりに楽しかったかもしれない。
そんなことを思ってしまうのは緑スキルだったからだ、恐らくレアリティは一番下っぽい。もうすでに斉藤さんが羨ましい。
「お名前をお聞かせ下さい」
テーブルへと向かう前に従者が尋ねてきた。
「えっと……さとう、たろうです」
佐藤太郎、もちろん偽名だ。
俺は基本的に、短い付き合いの相手や本名を名乗る必要がない場面では自分の名前を明かさない。
理由は単純、龍鳳胤鐵などという名が恥ずかしいからだ。どうだ、ルビが無いとなんて読むのかもう忘れただろう。
実にながったらしくて字で書くのも口にするのも面倒くさい、何より聞き返されるのが一番嫌だ。
先程の才与の儀とやらでも佐藤太郎と名乗っているのだからここでも問題はないだろうよ。
斉藤さんに本名を名乗ったのは、あくまでも免許証を見られて不可抗力であったからに過ぎない。
「はい、確認できました。それでは左側のお好きな席で乾杯用のグラスをお受け取りください」
そう言われ適当な席を探す。
どうやら他の人達も名前を確認されているらしい。
その中に斉藤さんを見つけた。
俺とは違い専用の席に案内されているようだ。
ぐぅ、待遇の違いはやはり光の色によるものか、紫はやはり希少なスキルってことの証だ。
異世界に来てまで地味な男なのか俺は。
そう卑屈に思いはしたが、イケオジの主導で乾杯が行われたので取り敢えず飲んで食った。
うん、ちょっと薄味だけど結構美味しい。
酒も悪くない、この際だから酔って忘れよう。
普段ならこんな意味不明な場所で疑いもせず平気でのみ食いできる性格ではないのだが不思議と食が進んだ。
だが晩餐会が始まってから十五分ほど経った頃だ、身体に異変が起こった。
ん? あれ? 視界が揺らぐぞ、それになんか……まぶたが……重いな…………。まだそんな……たくさ……飲んで…………ない──。
※
第一話冒頭へと話を戻そう。
──そうだ。
晩餐会の辺りで記憶が途切れてる。
それじゃ、あのまま眠りこけてここに連れてこられたって事なのか。
だいぶ頭がハッキリしてきたぞ。今、目の前で切り刻まれている女性は斉藤さんだ……。
解体作業に勤しむ二人の大柄な男は、まるで食肉加工でもするように淡々と刻んでは炉のような設備の中へと彼女の一部を放り込んでいく。
助けたい……、でも体が動かない。
それに恐らくもう手遅れかもしれない。あれだけ体を切られたら生きていられる訳がない。
それに何よりだ。
例えこの体が万全に動いたところで、あんなバーバリアンみたいなゴツい体の男二人を相手に俺みたいなヒョロガリがどうこうできる訳がない。
ダンジョン攻略とか、スキルなんて話も全部嘘だったのか、コイツら何が目的なんだよ。
色々考えて、悔しさで涙が溢れそうになったけどそれも我慢した、というかするしかなかった。意識がある事を絶対に感づかれてはならない。
そんな俺を他所に二人の大男はこんな状況の中、まるで日常と変わらない様子で話し始めた。
「しかしよー、たまには上玉の女とやりてえなあ」
「まあな、今回も何人か綺麗どこはいたけど全部お偉いさん行きだしな。ってお前この女で散々やりまくってたじゃねえか」
「へへ、まあせっかくのおこぼれだしな。っていやいやお前もだろ。しっかしあんだけやっといてなんだけど、反応ねえから物足りねえんだよな」
「それはまあ、たしかにな。っと、これで終わりだっ」
そう言うと男は最後に残った斉藤さんの首を炉へと放り込んだ。
話を聞いてるだけで吐き気がする。
なんなんだこの外道どもは。
できることなら殴りかかってやりたい。
でも、麻痺が解けてきた身体はいまだに微動だに出来ない。させない。
恐怖がそれを許さない。
そんな自分が情けない。




