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守るとは言ったものの、どうする、いや、落ち着け俺。
まずは現状の把握だ。
前方には大量のグール。
後方や側面にも、離れた位置に数体いるのが強化視力と聴力で確認できている。
要は囲まれているってわけだが、貪欲に襲ってくるのは前方の奴らだ。
まずはこいつらの対処を考える。
当たり前だけどコイツらは隊列など組まない、なのでバラバラと前に出てくる個体の首を取りあえず剣鉈で切り落としてみる。
取りあえず切り落とす、これは感覚強化による繊細な剣さばきがあればこそだ。
頚椎の継ぎ目に正確に刃を入れることで、非力な腕でも腐りかけの首くらいは余裕で切断できる。
問題があるとしたら体力の方か。
五匹ほど斬ったあたりで、もう既に軽く息があがってる。
勿論ただ斬ってるだけじゃない、強化動体視力で攻撃を躱しながらの反撃だから結構しんどい。
ただ、これは『感覚強化』の試運転みたいなもんだ。強化された状態での全身の感覚を掴みたかったのと、自分がどの程度動けるのかちゃんと知っておきたかった。
お陰でオーバースペック気味の反射神経もコツを掴めば何とか運用できるとわかった、どうやら屍鬼程度が相手なら俺の身体能力でも問題なく戦えるようだ。
ついでに多少の時間稼ぎにもなったな。
さあそれじゃ、奥の手を使うか。
スキル『救世の翼』には固有の三スキル以外にも汎用光属性補助スキルがいくつかおまけでついてくる。ちゃんと記載はあったけどもう忘れられているんじゃなかろうか。
固有が印象強すぎて影は薄いが、光属性が有効ならこれほどお誂え向きなスキルは他にないだろう。
『スキル:浄化』
『ランク:レア』
『フォーム:能動、補助』
『発動すると光の精霊の加護が付与される。光の加護を受けた者の手は、触れたあらゆるものの穢れ、不浄を自身の魔力と引き換えに浄化する。魔力消費量は浄化対象によって変動。使用者の魔力残量が対象の浄化に必要な魔力量と釣り合わない場合、浄化は行われない』
さあ、反撃開始だ。
顔目掛けて振り抜いてくる鋭い爪を潜り抜け、グールの身体に手を触れる。……まあ正直、触りたくはないんだけど今はそんな場合じゃあない。
『浄化対象を感知。対象、穢霊、浄化開始』
『浄化』をくらったグールの口からは、先ほど見た黒い触手のようなものが吐き出される。それは少しのたうつと光の粒に変わり宙へと消えていき、宿主だった体は地面に倒れ臥した。
これが浄化……、ちょっと綺麗だな。
なんて、悦りながらどんどん浄化していく。
このスキルの存在を覚えていたのなら始めから使って、牌谷さんを戦わせずに守ればよかったのではないかと、そう思われるかもしれないが実は『浄化』作戦にも問題がある。
それが考えが纏まっていないと言った要因の一つだ。
一つ。今、グールを八匹ほど浄化したが、消費した魔力は全体の二割くらいだ。
闘技場でスキルポーションにより回復したとはいえ、すぐに『アンチスキルコート』で消費し、その直後に『未来視』を使用、更に発動しっぱなしの『感覚強化』。
これらを総合すると、俺の魔力残量は残り四割ってとこだ、あくまでも体感的な数字ではあるけど。
つまり、俺が魔力欠乏症になるまでコイツらを浄化したとしてもせいぜいあと十数匹くらいが関の山。
事前に危惧していた通り『浄化』で無双するには圧倒的に魔力が足りないのだ。
もう一つ。これは浄化作戦とはまた違う話になるが、コイツらは自然発生した屍鬼なのか、死霊術によって人為的に操られているのかという点。
当初の作戦としては牌谷さんにグールを引き付けてもらい、俺が単独で周囲を索敵、術者がいれば排除。いなければ数の少ない箇所を強行突破で逃走、と考えていた。
操っている術者がいたらたとえ逃げても追われ続ける可能性があるけど、自然発生的なものならこの場所を離れればそれで済みそうだと思ったからだ。
しかし、それも牌谷さんの不調で頓挫してしまった。
いや、別に彼女を責める気など微塵もない。
これは、まあ、あれだ。
「俺の後ろに下がってください」とかいう格好良い台詞を言いたいなどと、地味男の俺が願ってしまったが故の業なのだろう。
こんな時だけ神が気を利かせてきやがったのだ。牌谷さんにはすまない事をしたと思っている……。
いや、話を戻そう。
要するに、いくつか手段はあったけど俺一人じゃジリ貧っていう話だ。
だけど手段を選ばなければ最終的に生き残る方法は、ある。
彼女を置き去りにして手薄なところから浄化を使っての強行突破だ。
これなら簡単に即実行可能だ。
…………でもこれは、たとえ死ぬことになってもやらないと思う。
たしかに俺は他人より自分優先の小物だし、以前の俺ならやってたかもしれない。
でも牌谷さんはそんな小物を本気で頼りにしてくれていた。こんな、他人のために倒れるまで戦えるような凄い人がだ。
そりゃ彼女もこんな異世界で藁にもすがる思いだったのかもしれない。それでも正直、俺の人生でこんなに他人に頼られた覚えは一度もない。
だから逃げるべきじゃないと、そう思った。
そうだ、生まれて初めて他人のために全力を尽くそう、彼女は必ず助ける。助けたい。
さっきも言ったが、受けた恩にはきっちり報いる。それが俺の信条。……ということにしよう、これからは──。
平行で考えを巡らせながら、身体操作への集中も忘れない。難しいけど、どっちかに思考が片寄れば、死ぬ。
浄化で更に四体を戦闘不能にして思った。
思ったより数が減ってきた気がする。
起き上がってこないだけで劇的に敵の減少が感じられるぞ。
いけるか……? これなら紫スキルポーションでドーピングすれば俺一人でごり押しできるかもしれない。
またか、芸がない、と自分でも思う。
しかし完全回復アイテムという物は、往々《おうおう》にして重要な場面の決定打となってしまう事が多々あるのだから、致し方ないのだよ。
そんな僅かな余裕が生まれてきたのも束の間──
……っ! ちょっとまてよ、マジか……。
──目の前で起こる事象が、ゴリ押しは不可能であると告げてくる。




