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決めた、出るなら屋外だ。
選択肢その四の屋外処刑場に出よう。
ここから抜け出しても、辿り着く先が屋内じゃまた出口を目指さなくてはならないし。
それに、正直言うと外の空気が恋しい。纏わり付くような血の臭いを嗅ぎすぎて気分が悪くなりそうだからだ……。強化嗅覚のせいもあるかもしれないけど。
進むべき階段を指で示すと牌谷さんが頷く。
さっきより緩やかで長い階段、隣にスロープ状のベルトコンベアがある造りは同じだ。ここが処刑場へと繋がっている。
ちなみに処刑場……とは言っても勝手に名付けただけだ。
絞首台、ギロチン、他にも使い方の解らないそれっぽい設備が色々と置かれているからそう呼んでみた。
そこが本当に処刑場なら好都合かもしれないのだ。今日の魔族達は贄の夜とかいうお祭りに夢中だから、そんな不粋な場所にはきっと誰も用事などないはず、たぶん。
まあそれすら楽しみそうな奴らではあるけど、あんまり深読みし過ぎると道が決まらないしな。
階段の一段目に足をかけ、外を目指して手を繋いだまま登り始める。
それにしても思ったより長い階段だな、こんなに長い階段を登るの生まれて初めてだよ。
俺は体力に自信はない、いやそれどころかむしろ貧弱と言っていい人間だからこれはかなりしんどい……。
後ろでは息一つ切らしていない牌谷さんが余裕綽々でついてくる。
これは、あんまり息を乱してたら格好悪いよな。
そんなつまらない見栄を張って呼吸を抑え気味にし、俺も息が切れてない感じを装ってみる。
当たり前だけどそんなことをすれば余計に息苦しい……アホか俺。それに手汗も気になる……。
ぐぅ、筋肉疲労で膝が笑う……早く出口についてくれ……。
登りは下りと違って、黙々と突き進むしかなかった。
喋る余裕などあるわけない。
登り始めて十分くらい経った頃だ。強化嗅覚が微かに漂う外の空気を嗅ぎとり、少しだけ元気が湧いてきた。
希望が……、見えてきたぞ……。もうすぐだ……!
※
ああ、やっと外に出られた……。
辿り着いた先は城のちょうど裏手にあたる場所で、敷地内と言えるくらい目と鼻の先に魔王城の背中が見える。
案の定、周囲に魔族達はいない。それとも今日の宴はそろそろお開きなのだろうか。
どちらにしろ助かった……。
「はぁ……はぁ……着き……ましたね……」
「お疲れー。ははは、さっきも言ったけどもうちょっと鍛えなよ?」
「はぁ……はい……。はぁ……はぁ……すみません……」
あまりの疲労から、手を繋いだまま地面にへたり込んでしまった。
それでも数時間ぶりに吸った外の空気は美味しすぎて、体の疲れを本の少しだけ忘れさせてくれる。
うーん、結局ダサいところを見せてしまったなぁ……。
まあそもそも格好良い訳でもないんだから気にする必要もないんだけど……。
あ、そうだ、今どのくらい時間経ったんだろう。
「ログ……」
『聖女の祈り』
『現在使用不可:制限解除まで十九時間時間四十分』
抽出施設で目覚めた時はたしか解除まで残り二十四時間ちょっとくらいだったから、あれからだいたい四時間半くらい経ったわけだ。
夜空の感じからして夜明けまではまだありそうだな、いったい深夜何時くらいなんだろうか。
もう少し城内を探るか……、でもそろそろ日中隠れる場所も決めておかないとな。
「また生きて空が見れるなんてね、クロ君のお陰だ」
「あ、いえ、俺も一人じゃどうなってたか……」
「ふふ、じゃあお互い様だね。ねえ、こんな時に呑気かもしれないけど、すっごい、ヤバイくらい星が綺麗だよ」
天を指差しながら、微笑みかけてくる牌谷さん。
「本当だ……」
よく見たら……いや、というか気づく余裕が無かっただけか。
星が降るような夜空なんて言うけど、本当に星屑が地上に降り注いでいるように見えるくらい壮大な星漢だ。
普通の精神状態なら一目で驚嘆してたと思う。
まさに絶景と言っていい。
正直、星なんか興味の欠片も無かった俺でも息を飲むくらいの光景だった。
「こういうの見たらなんか異世界だなーって、思うよねぇ」
「ですね」
「明日も見たいね」
「……明日には死んでるかもですけど」
「アハハハハ、そういうの言う? でも、そうならないようにしてくれるんだよね?」
「……………が、頑張ります」
「頼りにしてるよ、クロ君」
「は……はい。こちらこそ、よろしくお願いします……」
スキルを発動する為とは言え、女性と手を繋いで一緒に異世界の満天の星を見上げているとか……。
明日、もし俺が死んで人生のエンドロールが流れる時がきたとしたら、ここは間違いなくハイライトシーンとなるだろうな……。
こんな緊急時にも関わらずアホなことを考えてる自分に少し呆れながら、しばらく星空を眺めた。




