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リングを支える太い支柱を中心に、最下層をぐるりと四角く囲む高い壁。
女闘技者と手を繋いだまま、壁伝いに歩いてみる。探すのは勿論、外へと繋がる可能性のある死体の搬入口だ。
「そうだ、そう言えばまだ名前聞いてなかったね」
う、きたか……、俺からは敢えてその話題には触れないようにしていたんだけど……。
さて、どうしたもんか。
龍鳳胤鐵なんて本名は恥ずかしいからなるべく言いたくはない、でもこの人に偽名を名乗るのもなんか失礼な感じがして気が引けるな。
「えーと……」
「あ、ごめん! ウチは牌谷絆、よろしくね」
牌谷絆さんか。
こんな丁寧に名乗られたら余計に困るな……。
「は、はい、よろしくお願いします! 俺は……、あぁ、えぇ、そのぉ。そう、あれです。実は訳あって今はフルネームが名乗れません」
「え、なんかあるの? スキルに関わるとか?」
「そ、そんなとこです。なので俺の事はクロって呼んでください」
心の内を隠すべく、少し真面目な顔付きをして言ってみた。
ちなみに友人からはそう呼ばれてたから、これなら偽名にはならないよな。
「ふーん、解った。キミの事だからきっとなんか考えがあるんだよね。じゃあ黒スキルのクロ君だ」
いえ、なんもないっす……。申し訳ないっす。
取り敢えず愛想笑いでこの場を流そう、そして話題を変えよう。
「はは、ご理解いただいて助かります。し、しかし、搬入口が見当たらないですね」
「だね、でもきっとあるよ」
一周してみたが搬入口と思われる入り口は見当たらない。
これはやってしまったか……。
牌谷さんからはなんか妙な信頼を感じるだけに、見当が外れていたとしたら格好悪いな。
いやそれだけならまだいいけど、下手したら状況も悪化する可能性があるのが一番まずいか。
「もう一回見て回っていいですか? 今度はもう少し入念に壁を叩いてみようかなと」
「うん、わかった。いいよ」
仮に隠し扉があれば、後ろが空洞なのだから叩けば音に変化があるはず。とにかく、音、空気の流れ、臭い、感覚強化で拾えるものは全て見逃さないように神経を研ぎ澄ませないと。
『違う違う、そっちじゃナイヨ』
──!? なんだ!?
「どした?」
「い、いえ。なんか声が聞こえませんでした?」
「んにゃ、なんもだけど?」
『だから外の壁じゃナイって、道を探してるんダロ? 真ん中の支柱の方を調べてみるんダヨ』
──!?
なんだ!? 確かに頭に声が聞こえる。
いや聞こえるっていうよりスキルログの閲覧に近い感覚だ。
なんなんだ? 一度確認してみるか。
「ログ。──!」
スキルログを呼び出した途端、流れ込んでくる新たな情報。
これは、あれだ。もしかしてさっきの紫スキルポーションのやつか。そう言えば、それどころじゃなくて忘れてそのままだったな……。
『スキル:使い魔契約』
『ランク:エクストラ』
『フォーム:召喚』
『ランクに応じた使い魔がランダムに一体召喚される』
『スキル:毒物耐性』
『レベル:Ⅸ→Ⅹ』
『猛毒の分解によりレベルが上昇』
使い魔? おお、それに毒物耐性もあがってるぞ。
ログを確認した瞬間、俺の体から何かが飛び出してきた。
「やっと出られター!」
気分爽快そうに声を上げたそれは、羽の生えたピンクのスライム? もしくピンクのクリオネ? のような形のなにかだった。
まあなんというか……、うん……、可愛いなぁ。
「それじゃ改めまシテ。マズは自己紹介からダネ。僕にはネ、賢者の石、天上の石、エリクサー、赤きティンクトゥラ、第五実体、仙丹、生命の水、なんて呼び名がたくさんアルんだケド、ここではエリクシルと名乗っておこうカナ。エルって呼んでネ、新しいご主人様!」
「えっ? ウチ?」
へぇ、賢者の石って生き物だったんだ……。
違う違う、そうじゃ、そうじゃない!
こいつ、俺じゃなくて牌谷さんに挨拶してないか……、牌谷さんも戸惑ってるぞ。
それとも背中に顔があるのか?
んな訳あるか……。
「おいおい、エルちゃん、こっちだって……。召喚したのは俺だってば」
「……………………」
あれ、こいつ無視してない?
試しに掴んで無理矢理こっちを向かせみる。
「んぎぎ、やめろヤメロ。なにするんダヨ」
「いや、だから俺が契約者だって……」
「そんな訳ないダロ、エクストラランクの使い魔は高位の魔女に呼び出さレルって相場は決まってるんダ」
「いや、まあ経緯を説明すると少し話が長くなっちゃうんだけども……」
「エクストラの中でも奇跡の存在と言われるコノ僕が、こんなモブ顔の魔法使いに呼び出さレルなんて有り得ないんダヨ!」
くるぁぁぁ!! 誰がモブ顔じゃあ!!
前言撤回だ、こいつ全っ然可愛くねぇ……!




