25
グッと顔に力を入れてから平静な表情をつくって頭を上げる。
周囲を見回せば悲惨な光景が目に入り、血生臭さが鼻を突く。
上からも見て知ってはいたけど、辺りには闘技者や魔物の死体があちこち転がっている。
そういえば観戦してた時に見たな。敗れて死んだ者の遺体を、清掃係がリングの端から落としているところを。
「うわ……、酷いね……。で、こんなとこに降りてきたのには訳があるんでしょ。教えてくれるかな?」
「あ、はい」
これは女闘技者が死んだ未来の話しになるが、魔王は彼女が魔女に殺された時に「他のと同じように処理施設に捨てとけ」と言っていた。
言葉通りなら、敗者の死体は処理施設とやらに送られると言うことだ。
ならば周りにあるこの死体達も同じく処理施設行きなのだろう。
つまりはこの最下層には処理施設への搬入口がある可能性は高い。
そしてそうなると処理施設から上に登れ、出口へと繋がる通路もあるはずだ。
何でそんなことが解るか、それは簡単だ。
この高さを昇降できるような設備が周囲のどこにも見当たらないからだ。
そうなると処理施設へ徒歩で往来できる通路があってしかるべきだろう。
ここに死体を落とすのは運搬の手間を省くためと考えれば合理的だし、わりと筋の通った推察なんじゃなかろうかと思う。
ややこしくなるから未来云々の話は女闘技者には黙ったまま、この推論だけを説明して聞かせた。
「ふんふん、確かにそれはちょっと信憑性高いかも。化物だらけの上層よりは安全に逃げられるかもって訳だね」
「そういうことです」
「で、その搬入口はどこかな? それっぽいのが見当たらないけど」
「ですね、手分けして探しますか……。じゃなかった、あの実は──」
彼女には潜影について軽く説明しておいた。
何も言わないまま手を繋ぎっぱなしってのはあまりにも不自然だし、何より手分けすることができない理由は話しておかないとだ。
「へぇ、便利なスキル貰ったんだね。何色なの?」
貰った、というか……。
結果だけみれば斉藤さん達を犠牲にして手に入れた能力なんだよな……。
改めて思い返すと、なにか重たいものが胃のあたりにのし掛かってくる。
しかし、今はうつむく暇はない。
罪悪感や自責の念に囚われるのは、本当の意味で生き残った後でいい。
「これですね」
繋いでいない左手の甲を彼女に向ける。
「黒……? いや、濃い紫かな」
「まあ……そんな感じです」
でもやっぱり、詳しい経緯は説明したくなかったから少しはぐらかすように返事をしてしまった……。
そんな自分を情けなく思いながら、視線を落として自身の刻印を改めて確認してみる。
言われてみれば確かに。
自分でも意識してなかったけど、三度重ねた刻印は紫というよりは黒に近い濃い色味になっていた。
「ふーん、それでずっと片目を閉じてるんだ。じゃあ手は繋いだまま、一緒に探そうか」
「すみません。嫌だと思いますけど、もうちょっと我慢してください……」
「ん? 別に嫌じゃないよ? あのさキミ、助けにきてくれたんだよね? あ、てことは魔女のスキルが消えたのってもしかしてキミの仕業?」
「は、はい。潜影とはまた別のスキルを使いました」
「やっぱりかぁ。ウチね正直あの時、勝てないって思ってたんだ。最後の攻撃もやけくそでね、ああここで死ぬんだって半分諦めてたの。だからさ、キミには本当に感謝してる、なんていうか……こんな状況で人助けってスゴいことだよ、とにかくありがとねっ」
「い、いえ……! そんな大した人間じゃないです……!」
実際、俺はほんとに大した人間じゃない。彼女を助けたのも「戦力として申し分ないから」という打算的な部分もあったんだから全部が全部、善意って訳じゃない。
そう、俺が良い奴じゃないのは自分でよく解っている。
だけどお礼を言いながら、鋭い目付きを柔らかくして微笑む彼女の優しい笑顔は、地獄のようなこの異世界にはあまりにも不釣り合いで眩しくて、見てるだけで少し癒された。
と、同時に。
え、も、もしかして俺のこと……? トゥンク。
一瞬そう思いかけて、すかさず自分にビンタを入れた。
ぶるぁぁ! こんな綺麗な人だぞ……! しかもこんな状況で、なんておこがましいことを考えてんだアホか俺!
「な、なに……!? どした……!?」
「いえ、何でも……。行きましょうか」
「う、うん……」
非モテの童貞はちょっと誉められたらすぐ勘違いしちゃうんだから、あんまり甘やかさないでくださいぃ……!




