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「まあ、お前がそう言うなら間違いはないな。俺の気のせいじゃなかったか」
「おや、ルベル殿もお気づきでしたか? ふふ、鈍感なあなたにしては珍しいですね」
「やかましい、お前から見ればどいつもこいつも鈍感だろうが。で、何処にいる」
魔王の問いに応えるように、ノクスがゆっくりと俺のいる方向を指差してきた。
「そうですね、あの辺に気配を感じますね……。微かな、それでいて随分と異質な気配を」
そう言いながらこっちに歩いてくる。
非常にまずいな、でもこれはある意味かなりの収穫かもしれない。
いったい何で感知しているのか、それが解れば現実に戻った後のアドバンテージは相当なものだ。
さて、音か、臭いか、見えてはないみたいだな。
しかし、どうする。未来視を続行するかここで停止するかもまた問題だ。
どうする、どうする、どうする……。
そうだ──。
「おや、また気配が消えましたね。この高さを下に降りた? いやそんな感じでもなかった……」
「どうしたノクス、見失ったのか?」
「見失った、と言うよりはこの場から一瞬で消え去ったと言う方が正しいですかね。確かにここにいたはず、……ふむ、やはり何もいないようですね」
俺がいた場所をノクスが手探っているのだろうか。
あっぶな、危機一髪……。
『“潜影”、効果三を発動。認識阻害効果を強化』
そう、両目を瞑ればより強い効果を得られるのだ、潜影は。
ノクスがどのようにして俺の気配を察知しているのかはまだ解らないが、どうやらこれなら完全に奴からも隠れられるらしい。
それでも眼を瞑ったままあの場に留まるのは危険過ぎると判断して掴んでいたバルコニーの柵を頼りに、さっきいた場所から数メートルほど離れて今に至るという訳だ。
一か八か、こういうのはあんまりやるもんじゃないな。それにしても広いバルコニーで助かったよ……。
目を開けられないから何が起こっているのか見られないけど、このままやり過ごして様子を見よう。情報収集を続行だ。
「さっきの話ではないですが、もしや空間転移スキルでしょうか? 仮にそんなエクストラ級のスキルが使えるならもっと上手くやれそうなものですが……」
「だな、つまり多分そいつはまだ遠くへは行ってないだろう。奏紗、異世界人だけが城から出られなくなるような結界は張れるか?」
「えっとぉ………………。うん、多分できるよ、ルベル様」
「よし、いい子だ。おい、そこのお前。一応客人共が城の出入りに不自由しないかどうか見張りを立てておけ」
「はっ、かしこまりました」
「ふふ、判断がお早いですね」
「当たり前だ、逃げもせずこんなとこまで来るとは……俺を舐めた奴を生かして帰すわけにいかんからな。問題は明日までは贄の夜ってとこだな、たかが鼠が入り込んだくらいで中止になどできん。そんな醜態を晒せばいい笑い者だ」
「おや、それは是非とも見てみたいですね」
「やかましい! そもそもお前が今、余計な事をべらべら喋らずに黙って捕まえていればそれで済んだ話だろうが!」
「おや、ほんとですね。ふふ、これもご愛嬌です」
「自分で言うな、この狸が。まったく、食えない奴だ……」
今、奏紗っていったな。
そうだ思い出した、星澪 奏紗。魔王が侍らせている美少女の名前だ。
なんで知ってるか? それは才与の儀で彼女が従者役のノクスに名乗っているのを聞いていたからだ。
別にあえて名前をチェックしようとしたとかそんなんじゃない。
俺はあの時、斉藤さんを追いかけて一番前にいたのだから必然的に聞こえてしまっただけに過ぎない。
美少女だからと、彼女が名前を告げている横で目を血走らせながら聞き耳を立てるような、そんなことは断じてしない、俺は。
そう、たまたま、偶然、図らずも、聞こえてしまっただけなのだ。
まあそれは置いておこう。
魔王とは随分と親しそうだな。
一見すると自然な雰囲気に見えるが、昨日の今日でこんなに異世界に馴染んでいるのはそれだけで十分に不自然だ。
やはり魔王のスキルは催眠、洗脳、操作と言ったものに属する可能性が高くなってきたな。
それと星澪奏紗は特殊な結界を張ったりする事ができるエクストラスキルを保有していると。
もし統合スキルなら他にも何か持ってる可能性は高いな。
ここまででも、わりと良い情報は得られたぞ。
特にノクスとか言う奴にここで鉢合わせたのはある意味幸運と言っていい。
魔王の言葉尻からして、魔族の中でもトップクラスの索敵能力を有していることは間違いない。
それを看破できたのはかなりの収穫だ。
目を閉じればノクスは俺を感知できなくなる事がわかったし、奴はバルコニーに入って初めて俺に気付いたと言ってた。
つまりノクスが潜影中の俺を感知できるのは半径数メートルくらいだと予想できる。
要するに奴に近づきさえしなければ俺の位置はバレないし、接近されても急いで離れるか両目を瞑ればやり過ごせるってことだ。
もちろん他にも同じくらい高位の索敵能力を持った魔族がいる可能性は否定できないけど。
それと、何か大きな行動を起こすなら贄の夜の間が好ましいということ。
魔王はプライドが高そうだから、客人がいる間は大っぴらで目立つ大規模な捜索はやらなそうだからだ。
贄の夜が終わればその制約は無くなる。
途端に人海戦術で追い詰められるかもしれない。
まだこの先のプランは何も立ってないけど、急いだ方が良さそうな事だけは解った。
「そうだ、ノクス。リングの小娘の相手、お前がやるか?」
「おや、それは、実に面白そうですねぇ。血が騒ぎます」
「そう言うと思ったぜ、参加自由だ。殺してこいよ」
「では、少し遊んできましょうか」
こわっ、声だけでドSな表情をしてるのが伝わってくるって。
ここまでだな……、時間もいい頃合いだ。
『救世の翼スキル、“未来視”を停止』
『現在使用不可:制限解除まで二十三分』




