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リングで暴れる女闘技者を睨みながら、険しい表情を浮かべる魔王。
さすがに魔女が倒されたのは計算違いだったらしいな。
「おい、ノクスを呼べ」
「はっ、かしこまりました」
お? なんだ?
魔王が誰かを呼び出したようだ。
「もう来ておりますよ、ルベル殿」
「ふん、いつも間のいいやつだ。俺の事まで監視してるんじゃないだろうな、ノクス」
おおう……、ちょっとビックリしてしまった。
このノクスとか言う奴、いつの間にこのテラスに入ってきたんだ。
それにこいつ、見たことあるぞ。
そうだ、魔王が引き連れていた従者の一人。才与の儀で革張りノートに俺たちの名前を書き込んでいた奴だ。
服装は違うけど間違いない。
しかしこいつ、魔族の姿になってもほとんど人間と変わらない見た目だ。
昨日と違うのはエルフみたいに耳が尖ってるところくらいかな。
そして昨日から忌々しく思っていたが、こいつのルックス……。
長身でファッションモデルのようなスタイル、豊かで綺麗な漆黒の髪、宝石の様に美しい金色の瞳、イケメンハリウッド俳優以上に整った面。
要するに途方もないイケメンだ。
こんな奴の横に立とうものなら、俺の存在などゴブリンと五十歩百歩レベルまで格下げされることだろう。…………もちろん俺が百歩だ。
ちなみに才与の儀を終えた斉藤さんが奴に名前を告げるとき、目を泳がせ頬を赤らめていたのを俺はちゃんと見てたからなちくしょう……。
「ふふ、ご冗談を。そんなことよりも例の件、ご報告を。エクストラのソウルソーマ五本、行方不明の作業員二人、結論から言わせて頂くとまだ行方は解っておりませんね」
「そうか……ちょうどそれが聞きたかった」
見つからない二人、エクストラの文言、それに五本という数。
『ソウルソーマ』ってのはもしかしてこのスキルポーション、オークがスキル剤って呼んでた物の正式名称か?
それにしてもこの超絶イケメン野郎、慇懃無礼という言葉を具現化したような喋り方だな。
従者の役をしてただけで魔王とは単純な上下関係ではないってことなのか。
ノクスへ対する魔王の口振りも、他の配下へのものとは趣きが違うしな。
おっと、それはいま置いておいて。奴らの話を聞き逃さないようにしないとだ。
「ならあのバカ二人が持って逃げたか……? いや違うな。今リングで暴れている小娘にさっきサリーが殺られた、あまりにも不自然にな。消えたソウルソーマとなにか関係がありそうだ」
「なんと、あの魔女殿が……。ちなみに私も同意見ですね。あの作業員の二人ですが、私が遠隔で追跡していた気配が突然消えました。こちらも不自然な程に」
「死んだからじゃないのか?」
「私の索敵はたとえ対象が死んだとしても一日くらいは追い続けることができますから。逃げたにしろ、殺されたにしろ、その場から人の痕跡を消せる何者かがいないと無理な現象ですね、それこそ空間転移のような」
「なら殺されたな」
「根拠は?」
「勘だ」
「ふふ。勘、ですか……」
「笑うな。なに、この城で、いやこの国で俺にそんな舐めた真似できる奴はいない。なら犯人は召喚した人間くらいしかいないだろう。どうやって生き延びたかは解らんがな。それと、サリーの死体がどこかに隠された。多分その能力で、殺した二人も消したんだろうよ」
思った以上にバレてるな……。
魔王の見てる前で能力を使いすぎたか。
「なるほど」
「この推測が正しければだが、そいつはついさっきまで闘技場にいたことになるが……。この騒ぎだからな、もう逃げたかもしれんな」
「いえ、その心配はない……と思いますよ、ルベル殿」
「なぜだ?」
「それは、この場に妙な気配の方が御一人隠れてらっしゃいますからね……。今、初めて気配に気付きました、見事なほど非常に微かな気配、驚きです。どうやって隠れているか解りませんがこの能力、このかたが犯人の可能性が高いかもしれませんね」
──!?
え、まさかここに俺がいるのもバレてるのか!?
まずいな、安牌を切るならここで未来視を停止するか……。
ここが擬似世界だからといって油断はできない。
理由は一つ。
スキルを停止する間も無く気絶されられたり、意識障害を起こすような何かしらの攻撃を仕掛けられた場合、魔力が枯渇するまで未来視を半ば強制的に発動させられてしまう可能性があるからだ。
その状態で現実に戻ったとしたら俺は魔力欠乏症で身動き一つ取れないだろう。
つまりその時点で終わりだ。
そうなるくらいなら殺されたほうがいい、スキルの仕様上そこでスキルが強制停止されるからだ。
まあ、殺され方によってはめちゃくちゃ痛い思いをするかもしれないけど……。
だからこそ、危険を感じた場合は即座に停止するのがセオリーと言えるが。
どうする、できるならもう少しだけ粘りたいな。




