2
目にするもの全てが本物じみていて、とてもじゃないがなにかのセットとは思えない。
それでもまだいまいち異世界に来たという確信が持てないのは、王と名乗ったイケオジが日本語を普通に話しちゃってるからだな。
ラノベや漫画なら普通の事だろうが、いざ現実に赤髪の西洋風イケオジが流暢な日本語を発してくると、妙な日常味を感じてしまい異世界感はまるで湧いてこない。
海外で日本語の話せる外国人に出会うと妙な安心感を抱いてしまう小心者の俺だから尚更だ。
「おい! なんなんだここは!? それに協力しろって言う前に何をさせるのか言えや!」
うるさっ!
声を上げたのは俺のすぐ横にいた柄の悪い男だった。
ほんとにびっくりした、シャーペンの芯より繊細なハートを持つ俺の横で大声を上げるんじゃないよ、まったく。
しかしどうやら俺と似たような事を考えていたらしいな、輩のくせに。
だがそれが丁度良い号砲になったんだろう、その声に続くように他の人達も一斉に質問や野次をイケオジに飛ばしてる。
俺はといえば横から突然響いた怒号に驚き、ビクビクンとなった拍子にスマホを落としてしまっていた。我ながらなんとも情けない。
「おっと……」
慌てて拾おうとすると、俺以外の手が床へと伸びてスマホを拾い上げてくれた。
「はい」
「……ありがとう、ございます」
拾ってくれたのは眼鏡をかけた女性だった。
二十二歳の俺からみて、少し年上に見える容姿だ。二十代後半といったくらいだろうか、少々地味めで優しそうな雰囲気だ。
まあ俺も地味で陰キャな見た目だから人の事を地味とか言えないけどさ。
「なんか変なことになってるね。ご、ごめんね、いきなり話し掛けて。なんか怖くて……」
「あ、いえ、わかります。い、いきなりこんな状況ですからね、誰だって戸惑いますよね……」
「だよね。あ、私は斉藤アキ。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします。自分は──」
「りゅう……ほういん、何て読むのかな?」
貴様なぜ俺のトラウマネームを知ってる!?
「あ、これ免許証も一緒に落ちたみたいだよ」
「あ……、ありがとうございます……」
ぐぅ、ノート型スマホケースに刺していた間抜け面の免許証か。二重に嫌なものを見られたな……。
「あ、勝手に見てごめんね!」
「い、いえ、気にしないで下さい。ちなみに、読み方はりゅうほういんくろがねです」
そう、俺の名前は龍鳳胤鐵。
親よ、なんなんだこのふざけた響きと字画数の名前は。
小学生の頃から見た目と名前の温度差でからかわれ続けてきたんだぞ。こんなもん国宝級のイケメンでも持て余すわ……。
「へ、へえ名前かっこいいね……」
「あ、あざっす……」
見ろ、お姉さんも引いてるってばよ。
ほんとに俺には勿体ないくらい贅沢な名だよ、できることなら今すぐに湯◯婆にもぎ取ってもらいたいくらいだ。
「あ。あのおじさんなんか話し始めたよ」
ナイスイケオジ、名前の話題はこれで終わりだ。
ここぞとばかりに俺もイケオジへと視線を向け、耳を傾けた。




