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あまりの現実感に一瞬それを忘れていたが、いま俺が見ていた凄惨な光景はスキルが見せた十数分先の未来だ。
これが救世の翼の二つ目のスキル。
『スキル:未来視』
『ランク:眷属』
『フォーム:能動、特異』
『救世の翼スキル。魔力を消費し発動、これから起こる未来を擬似体験することができる。魔力消費量はスキル発動時間に比例する。このスキルを一分以上使用した場合、発動した時間と同じだけ使用制限が発生する』
『現在使用不可:制限解除まで十四分』
ちなみにスキルを発動させると擬似世界に切り替わり、スキルを停止すると発動させた時点に戻ることができる。
擬似世界とは言っても現実とはなんら遜色ないから戻って来た時は一瞬混乱しそうになったよ。
まあ普通にチート能力だ。上手く使えば未来の出来事だけでなく相手の持つ未知のスキルも容易に看破できるし。
それだけに十数分でもなかなかの魔力消費量だ、体感的に全体の三割くらいは持っていかれた感じがする。
こりゃ多用するのは無理だな……。
なんで『未来視』を使ったか、それは単純にこの女闘技者が重要な戦力になるかもしれないと思ったからだ。
それに魔力量に余裕があるうちに一度試してみたかったってのもある。
だが無駄使いはできない、だから今ここが未来視を試すベストのタイミングだったって訳だ。
リングに目をやれば、現実の女闘技者は今しがた九戦目を終えたところ。
「これは驚きだ! 魔王様が推薦されるだけのことはあ──」
「おい魔王! これで九回勝ったよね! あと一回勝ったら約束通り元の世界に帰してもらうから!」
この光景と台詞、既視感だ……。いやいや、じゃなくて実際に既視か。
そりゃそうださっき未来視で見たやつだからな、初めて使ったからだろうけどやっぱりこの妙な感覚には戸惑うな。
しかしまずい、そろそろ魔女が入場してくる。どうする、どうする、そんなに時間は残されてないぞ。
いや、もう決まってるか……。
そうだ、決まってる。
あんな未来を見てしまった以上、ただ座って観戦なんてできるわけない。
でも、こんな怪物同士の戦いに俺のできることなんてあるのか……?
ダメだ、そんなことを考えてる場合か。
急げばまだ間に合う。立ち上がって走れ俺。
向かうのはゴブリンとあの魔女が入っていった通路だ、闘技場が最高潮を迎えている今なら人混みも緩和されているはずだ。
※
案の定、今度はすんなりと例の通路に入ることができた。
わりと広い通路だが、ここにも今は誰もいない。
そこを道なりに走る、途中に階段や脇道があったけど迷路のようになっている訳じゃない。
リングまでの道程はだいたい想像がつく簡単な作りだ。
進んでいくと丸い部屋に出た。
見回せば扉が一つある。それと入って来た入口とは違う、仕切りの無い通路がもう一つ。
仕切りの無い通路からは歓声が響いてくる。
方向からしてもリングに続いているのは確実にそっちの道だろう。
そう考えるよりも先に、足がそちらへと向かっていた。
少し長いその通路を抜けると金網に囲まれた闘技場に辿り着いた。
おお、さっき外から見てた場所だ。
よし、彼女はまだ生きている。
上手く毒に触れないよう立ち回っているようだ。
しかしその攻撃はことごとく魔女に防がれてしまっている。
ここまでは一度見ている流れ通りだ、でもこのままなら彼女は死ぬ。
どうする、隠れて支援するのは限界があるけど。でも、やれるとこまでやってみよう。
きっとなにかできるはずだ。
でも魔女こえぇよ……。できる範囲で人助けするって決めてたのに、これはちょっと無茶してしまったかも……。
本の少しの後悔を頭の片隅に追いやって、リングへと脚を踏み出す。
最後列からの観戦ではちゃんと見えていなかったが、リングの周りには地面が無い。いやあるにはあるな、三十メートルほど下に。
そこには先程の戦いで敗れた者達の死体がいくつも転がっている。
これは落ちたら死ぬやつ。
女闘技者みたいな能力があれば別だけど、俺は多分死ぬだろう。
それだけに幅約一メートル程のリングへと伸びる柵のない橋ですら普通に怖い。
あまり下を見ないようにしよう……。
足早に橋を渡りきり、ヘドロまみれのリングへ軽く触れてみる。
このヘドロ、柔らかいな……。
いや、柔らかいというより触れている感触が殆んどないな。
見た目ほどの粘っこさはないし、どちらかと言えばヘドロと言うより少し重みのある煙みたいな感じだ。
これに関してはヘドロのような纏わりつく物質でなくて助かったと本当に感謝した。
もしそうだったら歩きにくいし、なにより雪や泥のように移動の痕跡でも残ろうものなら俺の存在がすぐに露呈してしまうからな。
『毒物耐性発動』
『猛毒を検知、分解中』
よし、体内でなくても毒は問題なく無効化してくれている、たいしたダメージもないから潜影も解けてはいない。
服毒したわけではないからかな? かなり強烈そうな毒に見えたけどスキルポーションよりも毒のランクは低いみたいだ。
少々足まわりがビリビリするけどなんてことはない。
さあ、支援活動を開始だ。
とは言えここから先の戦いはもう知っている、俺が介入するなら……。
「クソッ! こんなんじゃダメみたいね……」
ここだ。
魔女の周りを血球が取り囲む今。
女闘技者が放つ『どこでも鋼鉄の処女』にタイミングを合わせる。




