15
抽出部屋の扉を出て、階段を上がる。上にはもう一つ扉があり、そこを開きしばらく進むとすぐに外へ出られた。
外に出て解ったが、やはりあの部屋は地下室だったみたいだ。潜影が二十四時間発動できる環境だったから今生きてるって訳か。
そして予想通り外はいま夜。物凄く久しぶりに感じる外の空気と、肌に当たる夜風が気持ちいい。
辺りには薄明かりが幾つかあるが、人はいない。
この抽出施設は離れのように設置されていて、視界の先には大きな城が見えた。
そこを照らす煌々とした灯りが、贄の夜とやらの盛り上がり具合を予感させてきて頭に来る。
結局こいつらは国を護るためにスキルをかき集めていたような連中じゃなかった、それどころか人間ですらなかったんだけど。
真の目的は愉悦の為の異世界召喚ってか、本当にムカつくな。
さあ、取り敢えずあの城に行ってみよう。
帰る手立てを探さないといけないし、まだ生き残っている人もいるらしいからな。
いくら小物の俺でも、できることなら助けたいという気持ちくらいはある。
あくまで無理のない範囲でだけど……。
※
城内に辿り着いて驚いた、とにかく人が多い。いや、正確には人に見えていたであろう化け物達なんだが。
ほんとお祭りかってくらいに着飾った奴らが行き交っている。
化け物達は人と似た姿かたちの奴が多いが動物っぽい見た目の奴なんかもいて、けっこう多種多様な感じだ。
人型の種類もオークだけじゃない、羽の生えた奴や角の生えたやつ、色々いて驚かされる。
ファンタジーで言うなら魔族と一括りにされるような奴らだろうか。うん、もう魔族と呼ぼう。
いくつもの照明が取り付けられた城の周辺は昼のように明るいが、潜影のお陰で全く気付かれてはない。
それにこれだけの人数が集まっているなら多少耳や嗅覚が優れた奴がいてもそう簡単には察知されることは無さそうだ。
まあ、とにかく潜入開始だ。
まず目指すべきは……食糧と水だな。
少し情けないが腹が減っては戦は出来ない、この言葉をこれほど痛感することになろうとは夢にも思わなかったけど。
多分どこかに用意してあるはず。
根拠は昨日の晩餐会で用意されていた食べ物の量だ、百人分なんてもんじゃなかった。
つまりあれらは俺ら召喚された人間に用意していたわけではなく、このイカれた夜会の来賓客への物だった可能性が高い。
なら今日もあるはず。
強化された嗅覚を頼りに城内を探る、すると見覚えのある通路を見つけた。確かこの奥だ。
通路の先には観音開きの大きな扉が開け放たれている。
あそこだ、間違いない昨日の晩餐会場だ。
中へと入ると大量の食い物がテーブルに並べられていた。
よし、これで食糧はなんとかなった。
食事をしている魔族もけっこういるが、城外ほどには多くない。なるべく奴らのいないところを選んで掴んだ肉やパン、水を口に詰め込んだ。
旨い、昨日と同じ物とは思えないくらい旨かった。
あとは鞄に詰められそうなものを選んで持てるだけ頂戴する。
「──っ!?」
物色している最中、視界が捉えた光景に戦慄した。
それと同時に慌てて口を押さえ、うっかり漏れ出そうになった驚声を音になる前に喉の奥へと押し返す。
テーブルには無惨な姿に変わり果てた人間の丸焼きが置いてあった。
内蔵は取り除かれ首は無く、あちこち食い荒らされていたが、身体付きからして女性だ。
正直、それを見て青ざめた。
なんせ同情や憐れみ、怒りなんて感情を置き去りにして一番最初に湧き上がったのは、恐怖心だったから。
他の生物に補食されて死ぬのって、ただ殺されるのとは比べ物にならないくらい怖く感じるのはなぜだろうか……いや、あの様子なら生きたまま食われる訳じゃなさそうだ、サメやヒグマに食われる怖さとはまた違うか。
いやいや、それでも普通に怖いって……!
……何てことを考えられる内はまだ大丈夫だ、まだ戦える、とにかく動け、俺。
そうだ、ビビってる時間なんかない。自由に動ける夜の間に城内をできるだけ探ろう、生き残っている人も探さないといけないし。
うずくまってしまいそうな自分へ頭で言い聞かせ、詰められるだけの食糧を鞄に詰めて晩餐会場を後にした。




