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オークからは一定距離を保ち、その周りを円を描くように静かに旋回しつつ質問をする。
一ヶ所に留まっていたら声で位置を特定されかねないからな。
「スキルの色分けについて教えて欲しい、 ちなみに少しでも逃げる素振りを見せたら殺す」
「ああ、そ、そんなことか。解った、は、話すから落ち着いてくれ……」
落ち着いとるわ。
話によればここにいない人間が付与されたスキルは大きく分けて二つ。
まず一つ、赤と黄は俗にいう外れスキルだそうだ、大して役に立たないから抽出する必要がないらしい。
二つ、白は特別なスキルらしいがユニークスキルというものに属するらしく、名前の通り付与された本人にしか扱えないため抽出することが出来ないらしい。
「その人達はどうなった?」
「ああ、例年どおりなら今頃は贄の夜の余興に使われる玩具だろうな。メインは闘技場でダンジョン魔物や戦闘好きな奴らと戦わせて見せ物にされたりなんかだ」
「今頃ってことはまだ生きてるのか?」
「ああ、まだ二日目だ。この夜会は三日間続くからな、まだ全員は死んではないだろうよ」
「そうか、もう一つ。エクストラスキルが宿った人間は六人いたはずだ。あと一人がいない、どうなったか解るか?」
「? いや知らねえ。俺たちに仕事がきたのは抽出した五人だけだ……お、おい、こんだけ喋ったんだ、み、見逃してくれる、よな!!」
言葉と共にオークは背後へと強烈な裏拳を見舞ってきた。が、空振り。
声のする位置から俺が周りを歩く周期を予測した一撃だろう。こいつ、思ったより馬鹿じゃないらしいな。
なんて余裕綽々な風に言ってみたけど、本当は間一髪だった。
感覚強化による動体視力と反射神経の向上がなければ俺の頭は吹き飛んでいたかもしれない。
それくらい紙一重、ギリギリの回避……あっぶな!
けど一つ勉強になった、いくら動体視力と反射神経が良くてもそれに見合った筋力がなければ感覚強化は生かしきれないらしい。
体の動きの鈍さと感覚の鋭さの対比がそれを教えてくれた。
急な反応に体が遅れて動く感覚、例えるならハンドルの遊びが多すぎる車みたいなイメージだ。
他の闇の手スキルが使えないのもなんとなく納得してしまった。
しかしこうなるとオークは何をやらかすか解らないな。聞きたいことはまだあったけど、ここまででいいか。
話しぶりから大した情報は持って無さそうだし、何よりあんまりここに長居したくない。
と言うことで。
「がはっ!? くそっ……、やろうが……」
「クソ野郎はお互い様だろ……」
攻撃をミスったオークが狼狽えている隙に、静かに後ろへ回り込み心臓を二ヶ所滅多刺しにさせてもらった。
無抵抗の人間を散々バラしてきた報いだ。
俺の足元でオークは静かに息絶えた。
さて、このままオーク二人の死体を放置しておけばいずれ誰かが来てこの事を王に報告するだろう。そうなれば城内に何者かが入り込んでいると騒ぎになることは目に見えている。
それじゃせっかくこの二人を口封じしたのが台無しだ。
なので勿論この後の対処はちゃんと織り込み済みだ。
『闇の手スキル、“死体処理班”を発動』
今使える闇の手スキルの最後の一つだ。
『スキル:死体処理班』
『ランク:眷族』
『フォーム:能動、召喚』
『闇の手スキル。魔力を消費して闇の魔獣を呼び出す。闇の魔獣は死体を用意してあげると喜んで食べるが、大人しくて恥ずかしがり屋な性格のため、その姿を見せてはくれない。死体を食べ終わると時々お礼を言ってくれる』
スキルを発動すると同時に空間を裂いて黒い穴が出現した。
そこから出てきた大きな長い舌が二人の死体に絡みついて穴の中へと引き摺り込んでいく。
床の血液や、なんなら剣鉈についた血脂も綺麗に舐めとってくれたらしく、そこにあった惨劇の痕跡はみるみるうちに消えてしまった。
まるで何事もなかったかのようだ。
闇の魔獣はすみやかに食事を終えると「アリガト……」と一言だけ残して、宙に空いた黒い穴は静かに閉じた。
こわっ! ま、まあちょっとだけ可愛いかったけど……。
それにしても色んな意味で怖いぞこのスキル、殺しの隠蔽以外に使い道はあるんだろうか……。
それにオーク二人をひと呑みって、闇の魔獣とやらが直接戦ってくれたら最強なんじゃなかろうか。
でも説明からして死体処理以外はやってくれないんだろうな。
よし、これで王達が「解体屋の二人が紫スキルポーションを持って逃げた」とでも勘違いしてくれればいい目眩ましになる。
奴らが正確に人数を数えていたら俺という存在の発覚は時間の問題でもあるが、今すぐバレるよりはずっといい。
まあそれはそれとして、まさかの急場を凌ぐことができて本当に良かった。
魔力消費型を二度使用したけど身体に大きな異変はない、多少なにかが減ったような感じがするだけだ。
闇の手スキルは省エネタイプなのかもしれないな。
さあ、考えるのはここまでにして他の奴が来ないうちにここを出よう。
そこで一歩踏み出して気づいた、いつの間にか脚の震えが止まっている。
臆病な俺にはいい荒療治だったのかもしれない。
そうだ、ここからだ化け物ども。お前らが取りこぼしたのはただの鼠じゃないって思い知らせてやる。
……なんて、ちょっとだけ意気込んでみた。




