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「おい! てめえ何もんだ!? いや、まさか、そうだお前だな、エクストラのスキル剤を盗んだのは!?」
うるさっ!
只でさえ怖いのに至近距離で大声だすな。
でもなるほど、この慌てぶりはあれだ。
紫スキルポーションが無くなったもんだから、コイツらが盗んだ犯人にされかけてるってところか。
いやいやご名答、なんなら二本はご馳走さまでした。
「おい、今すぐ出せ! そしたら楽に殺してやる……っておい、どこ行きやがった!?」
『闇の手スキル、“潜影”を発動』
いつまでも姿を晒しとくかよ。
こうなったらやるしかない、取り敢えず潜影は一度強制解除されても再度三秒間片目を瞑ればとくに制限などなく再発動することは解った。
これはここで知れて良かったよ、重要な場面で足踏みしないで済むからな。
「おい、出てきやがれ! どうやって起きたか知らねえがてめえ異世界人だろ! とっ捕まえて他の奴らみてえに贄の夜の供物にしてやるからな! 楽に死ねると思うなよ!」
解体屋の片割れが怒鳴りながらドアを閉めた。
おいおい楽に殺してくれるんじゃなかったのかよ……、それにしても他の奴らっていうのはこの部屋に運ばれていない人間の事だろうか。
供物って事はその人達は抽出とは別の何かに使われているのか? ここに全員がいないのだから勿論そういう可能性も考慮してはいたけど、どうせろくでもないんだろうな。
胸糞悪いな、この異世界の奴らは。
ホントにクソだ……。
ドアを閉めて逃げられないようにしたんだろうけど、もう逃げるつもりはサラサラない。
『闇の手スキル、“感覚強化”を発動』
こっちもスキルの試運転を兼ねて本気でやってやる。
『スキル:感覚強化』
『ランク:眷族』
『フォーム:能動、補助』
『闇の手スキル。魔力を消費し発動。視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚、反射神経、運動神経等の感覚能力を飛躍的に向上させる』
よし、長いこと寝たのと事前に飲んでいたスキルポーションの影響だろうか魔力は十分に回復したらしい。
このスキルを発動しても魔力消費による身体への影響はほとんど感じられない。
もともと消費量が少ない可能性もあるがどちらにしろ助かる。
感覚強化を発動させると視界が途端に鮮明になった。
もともとそんなに視力が低いわけではないけど、それでも目に見えて違いが解る。
例えるなら目に映る光景がアナログテレビの画質から8Kテレビの画質に切り替わったくらい鮮明に感じる。
薄暗いと思っていたこの部屋も、暗視スコープでもつけたように明るくなった。なんなら一番遠くの隅の壁の染みまでハッキリと見える。
視界に感動してる場合じゃないな。
ひとまず奴らの背後に忍び寄る。
うん、全く気取られてはいない。
まずは一人を確実に、だ。
このオークみたいな奴ら……いやもうオークでいいか。
このオーク達、外見だけなら身体の構造は人間とほぼ変わらないようには見える。
急所の位置はだいたい同じか……?
そう考えていたら耳に微かな音を捉えた、たぶんオークの心臓の鼓動だ。これも感覚強化の聴覚の向上による効果だろうな。
その音は背中の左上部、間違いなく人間の心臓と同じ位置から聞こえる。
ならそこを貫く。
だが狙いを定めて気づいた。
鼓動の音は二つ重なっている。
二人いるからかと、そう思ったけどそうじゃない。こいつ心臓が左右に二つある……。
肋骨に引っ掛からないように剣鉈を水平に構え、音のする場所を正確に刺し貫く。
「がっ!? な……、なん……だ……? せな……かが…………」
素早く引き抜き、もう一回背中から右の心臓にも鉈を突き刺して即座に離れる。
解体屋の片割れは膝から崩れ落ちて床に突っ伏した。まだ死んではいないが虫の息だ。
ふぅ、なんとか、やれた……、あの出血量、間違いなく両方の心臓を貫通できた筈だ。心臓が二つある事に早く気づけて良かったよ。片方やられただけならまだまだ動ける、なんてありそうだし。
しかし、スキルの補助が有るとはいえ冷や汗が止まらない。
それに物凄く嫌な感触だ、化け物相手でもざまぁ達成の爽快感なんてありもしない。
血の色が同じ赤なのも余計に不快感を煽ってくる。
それでもやるしかない、コイツらをここで殺すのは何も敵討ちのためだけじゃあない。
抽出を免れた人間がいる事を知ってるこの二人を生かしておくのは、この先に悪影響が有り過ぎる。
上に報告されようものなら俺の存在がただちに露見して大騒ぎになるかもしれない。
それが今の俺にとって最も回避したい事案だ。
こいつらをこの場で消してしまえば、俺という存在の発覚を先延ばしにできる可能性が高い。
『接触により潜影が解除』
「おい! な、何しやがった!? てめえ今どこから現れやがった!」
潜影は装備品が触れても解除される、つまりは攻撃を仕掛けると認識阻害効果が解けてしまう訳だ。
想像するに銃なんかの飛び道具を持ってたらこれは最強なのでは……しかしそれじゃ銃声がせっかくの認識阻害効果を邪魔するな、いやサイレンサーがあればなんとかなるか。そうなると入手の容易さも加味して、技術さえあれば手裏剣や投げナイフの方が有効なのか。なら素人でも一定の威力を出せるスペツナズナイフのような飛び道具があれば……。
おっと、目の前に集中しろ俺、馬鹿か!
「てめぇ! こ、今度こそぶっ殺してやる! ──! ま、また、消えやがった……」
『闇の手スキル、“潜影”を発動』
考え事をしていようが、片目を閉じておくのを忘れてはいない。攻撃後は即座に隠れる。
でなきゃこの体格差だ、真っ向勝負じゃ一対一の素手対刃物でも勝てるわけがない。
だが相手の声にだいぶ怯えの感情が滲んできたな。一人やったんだから当然なのか、精神構造も人間と大して変わらないようだ。
「なあ、質問に答えたらスキル剤とやらを返してあげるけど、どうする?」
「ほ、本当か!?」
うん、認識阻害状態でもこちらの声は伝わるらしい。
ついでにわざと足音を立てて見ると解体屋はこっちに顔を向けたので、音全般は隠せないようだ。足音の出にくいスニーカーでよかったよ。
俺と同じように聴覚を強化できるスキルを持ってる奴がいたら潜影は無効化されるかもな……留意しとこう。




