8話
最終章「光の記憶」
通知メールを読み返すたび、胸の奥が静かに波打った。
「佳作に選ばれました。おめでとうございます」
それだけの文面だった。だが、そこには確かに、自分の名前があった。誰かが、自分の見た光を受け取ってくれた。その事実が、何よりも嬉しかった。
受賞作品は、朝のカーテン越しに差し込む光を撮った一枚だった。何の変哲もない写真。けれど、あの日の気持ちが、画面の中に残っていた。
展示会場は、区の文化センターだった。壁に並ぶ作品の中に、自分の写真があった。タイトルは「目覚めの輪郭」。誰かが足を止めて見ていた。声は聞こえなかったが、視線の長さが、何かを伝えていた。
帰り道、真一はカメラを肩にかけたまま、ゆっくりと歩いた。夕方の光が、街の建物に斜めに差し込んでいた。窓の縁、電線の影、歩道の端──どこにでも、光はあった。
家に戻ると、ゆかりが声をかけてきた。
「展示、どうだった?」
「……見てくれてる人がいた。嬉しかった」
「よかったね」
それだけの会話だった。だが、言葉の奥に、何かがあった。以前とは違う空気が、部屋に流れていた。
その夜、真一はアルバムを整理した。削除せずに残していた写真、失敗作と思っていたもの、誰にも見せなかった一枚──それらを並べてみると、ひとつの流れが見えてきた。
光を探していた日々。誰かと共有したかった時間。拒絶された痛み。そして、再び見つけた光。
それらは、すべて繋がっていた。
翌朝、真一は早く目が覚めた。カーテンを開けると、柔らかな光が部屋に差し込んできた。カメラを手に取り、そっとシャッターを切った。
画面には、何も特別なものは映っていなかった。だが、そこには確かに、今の自分がいた。
これからも、撮り続けようと思った。誰かに見せるためではなく、自分の中に残すために。
光は、記憶になる。言葉にならない思いを、そっと包み込んでくれる。
そしていつか、その記憶が、誰かの心に届くかもしれない。
真一は、カメラを肩にかけて、玄関を出た。朝の街は、まだ静かだった。だが、光はもう、そこにあった。




