6話
思いは、募るばかりだった。
撮影のたびに、佐伯さんの存在が気になった。彼女の視線、言葉の選び方、光の捉え方──どれも、真一にとっては静かな刺激だった。何かを語り合いたいと思った。光のことでもいい。日常のことでもいい。ただ、もう少しだけ近づきたかった。
家では、居心地の悪さが増していた。
夕食の席で、ゆかりがふと真一を見た。
「最近、スマホばっかりだね。何撮ってるの?」
「公園とか、風景とか」
「ふーん……」
それ以上、何も言われなかった。だが、視線が少し長かった。陽斗も、スマホをいじりながら、ちらりと真一を見た。何かが、伝わっている気がした。言葉にはならない違和感が、食卓の空気に混ざっていた。
次の撮影日。集合場所の近くで、真一は少し早めに着いた。公園のベンチに腰を下ろし、スマホを見ていた。すると、少し離れた場所で、主宰と佐伯さんが話している声が聞こえてきた。
「宗像さん、光にこだわりすぎてて、ちょっと気味が悪いよね」
主宰の声だった。冗談めかしていたが、笑ってはいなかった。
「中高年の男性って、出会い目的の人も多いし……ちょっと苦手」
佐伯さんの声だった。はっきりとは言っていなかったが、同調するような口調だった。
真一は、スマホをしまった。何も言わずに、静かにその場を離れた。
その夜、画面を見つめながら、何度も指が止まった。送るべきか、送らないべきか。だが、言葉はすでに決まっていた。
「お世話になりました。諸事情により、退会させていただきます」
短いメールだった。感情は入れなかった。光も、言葉も、残さなかった。
翌朝、返信が届いた。
「了解しました。また気が向いたら、いつでもどうぞ」
それだけだった。
真一は、スマホを伏せた。部屋の中は静かだった。窓の外には、曇り空が広がっていた。光は、どこにもなかった。
だが、目を閉じると、あのスケートボードの背中に差し込む光が浮かんだ。滑り台の影、佐伯さんの肩に落ちた午後の光──それらは、もう撮ることはできない。でも、確かにそこにあった。
孤独は、戻ってきた。けれど、以前とは少し違っていた。
光を知ってしまった孤独は、ただの空白ではなかった。残響のように、静かに心の奥で揺れていた。




