5話
撮影が終わったあと、駒沢公園のベンチで休憩していた。
宗像真一は、スマホを膝に置いたまま、ぼんやりと空を見ていた。午後の光が、木々の間から差し込んでいた。風が吹くたび、葉の影が地面に揺れた。
隣に座っていた佐伯さんが、ふと声をかけてきた。
「今日のスケート、いい光でしたね。背中に差し込む感じ、撮れました?」
「はい。何枚か、うまくいった気がします」
「動いてるものって、難しいけど、面白いですよね」
佐伯さんは、そう言って微笑んだ。真一は、少しだけ勇気を出してみた。
「佐伯さんは、どうして写真を始めたんですか?」
佐伯さんの表情が、すっと静かになった。
「……あまり、そういう話はしてないんです」
言葉は柔らかかったが、はっきりとした拒絶だった。真一は、すぐに謝った。
「すみません、つい……」
「いえ。気にしないでください」
それ以上、会話は続かなかった。佐伯さんは立ち上がり、他のメンバーの方へ歩いていった。真一は、スマホを見つめたまま、動けなかった。
光を共有できると思っていた。けれど、境界線は思ったよりも遠かった。
次回の撮影日。集合場所に向かうと、佐伯さんが先に来ていた。
「こんにちは。今日、晴れてよかったですね」
何もなかったように、穏やかに声をかけてくれた。真一は、少し戸惑いながらも、挨拶を返した。その笑顔に、前回の拒絶が溶けていくような気がした。
撮影中、ふと佐伯さんの横顔に光が差した。真一は、また反射的にシャッターを切ってしまった。画面には、柔らかな光に包まれた彼女の姿が映っていた。
すぐに、後ろめたさが込み上げた。前回のことを思い出した。何をしているんだ、自分は──
真一は、そっと写真を削除した。
その夜、夕食の席で、ゆかりがふと真一を見た。
「最近、よく出かけてるね。写真、そんなに楽しいの?」
「まあ、ぼちぼち」
「ふーん……」
それ以上、何も言われなかった。だが、視線が少し長かった。陽斗も、スマホをいじりながら、ちらりと真一を見た。
何かが、伝わっている気がした。言葉にはならない違和感が、食卓の空気に混ざっていた。
真一は、箸を置いた。画面の中の光よりも、今この瞬間の沈黙の方が、ずっと重かった。




