4話
駒沢公園駅近くの喫茶店。午後の光が窓辺に差し込んでいた。
宗像真一は、奥のテーブルに座っていた。向かいには、前回声をかけてきたグレー帽の男性。その隣には、落ち着いた雰囲気の女性が座っていた。髪は肩にかかるくらいで、控えめな色のブラウスを着ていた。美人とか可愛いという印象ではない。けれど、どこか安心できる空気をまとっていた。
「今日はご参加ありがとうございます。うちのサークル、SdP──スマホdeフォトは、自由に撮って、楽しもうっていうだけの集まりです。技術とか、テーマとか、あまり縛りはないです」
男性は、コーヒーを一口飲んでから続けた。
「この方は副主宰の佐伯さん。けっこうこだわりのある方ですけど、押しつけはしませんので」
佐伯さんは、軽く会釈した。真一は、つい目がいってしまった。何かを語るわけではないのに、そこにいるだけで空気が柔らかくなるような人だった。
「入会、してみようと思います。家族には……まあ、内緒で」
言いながら、少しだけ胸がざわついた。あの夜の食卓が頭をよぎる。「変なの撮って捕まらないでね」「盗撮で捕まらないようにね」──冗談だとわかっていても、あの笑いの輪には入れなかった。だから、これは自分だけのことにしておきたかった。
喫茶店を出ると、サークルのメンバーとともに駒沢公園へ向かった。中高年の男女が計7人。皆、スマホを手にしていた。
今日のテーマは「動と静」。子供スペースの遊具と、スケートボードパークの撮影だった。
遊具は、誰もいない時間帯だった。滑り台、鉄棒、ブランコ──それらは、まるで時間が止まったように佇んでいた。真一は、光の角度を探しながら、滑り台の影を撮った。金属の表面に反射する光が、まるで水面のように揺れていた。
そのあと、スケートボードパークへ移動した。
若者たちが、コンクリートの斜面を駆けていた。ジャンプ、着地、旋回。ボードの音が空気を裂き、影が地面を走る。真一は、スマホを構えた。動きは速すぎて、構図を決める暇もなかった。だが、光が、彼らの背中に差し込む瞬間があった。その一瞬を、何枚も撮った。
画面には、ブレた影と、光の粒が映っていた。だが、それがよかった。動の中に、光が生きていた。
撮影が終わると、皆でベンチに腰を下ろした。真一は、スマホを見返しながら、ふと佐伯さんの方を見た。彼女は、何も言わずに空を見ていた。午後の光が、彼女の肩に落ちていた。
その瞬間、反射的にシャッターを切ってしまった。
画面には、光に包まれた横顔が映っていた。柔らかく、静かで、どこか遠い。だが、すぐに後ろめたさが込み上げた。本人に断ったわけでもない。何を撮っているんだ、自分は──
真一は、そっと写真を削除した。
孤独感が、少しだけ抜けていた。誰かと光を探すこと。それが、こんなにも静かに救われるものだとは思わなかった。
真一は、スマホをしまった。画面の中の光よりも、今この瞬間の光の方が、ずっと確かだった。




