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筋肉至上異世界「マッチョルディア」  作者: 南蛇井


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9/12

敵勢力の登場 ― 「知識vs筋肉」

村の広場。夕暮れの空を赤く染めながら、村人たちがざわついていた。

冒険の準備をしていた彩花たちの耳に、重い言葉が飛び込んでくる。

「北方の国、ウィズダム帝国が動き出したらしい……」

「奴らは筋肉を否定し、魔法と知識で国を支配しているんだと!」

その瞬間、周囲のマッチョ村人たちが一斉に青ざめる。

「筋肉を否定だと!? そんな非文明的な!」

「鶏胸肉の尊さを知らんとは……なんという愚か者どもだ!」

まるで世界の終わりを告げられたかのように動揺する筋肉社会の人々。

だが、彩花だけは心の中でツッコミを入れずにはいられなかった。

(……いやいやいや。普通に考えたら、知識と魔法で統治してる国のほうが“文明的”っぽいでしょ!? なんで筋肉否定が野蛮扱いなのよ!?)

胸を張りながら「筋肉こそ文明!」と叫ぶ村人たちを前に、彩花は再び自分の常識が崩壊していく音を聞いた。

村の外れ、夕焼けに照らされた街道。

突如、冷たい風が吹き抜けたかと思うと、痩せ細った影が姿を現した。

長いマントを翻し、細身の体を誇示するかのように胸を張る男。

頬はこけ、指は骨のように細く、それでも瞳には異様な光が宿っている。

「我こそは――ウィズダム帝国の叡智を司る者、スキニーウィズダム教授!」

高らかに響く声。村人たちは一斉にざわめき、顔を引きつらせた。

彼は片手を掲げ、嘲笑を浮かべる。

「筋肉など時代遅れ! 真に人を導くのは知性と論理だ!

 貴様らは未だに肉体を崇め、鶏胸肉をかじりつく……まさに原始人の所業よ!」

村人たち「な、なんだと!?」「筋肉を愚弄するとは!」

バルド「黙れ! 筋肉は文明だ!」

場の空気が一気に険悪に染まる。

だが、そんな中で彩花だけは冷静に心の中で叫んでいた。

(……いや、これ……セリフだけ切り取ったら、教授のほうが正論っぽくない!?

 なのにどうして完全に“悪役ムーブ”なのよ!? 私の感覚がおかしいの!? それともこの世界が狂ってるの!?)

痩せマッチョ否定派の教授と、筋肉信仰の村人たち。

その衝突の予兆に、彩花はただ頭を抱えるしかなかった。

スキニーウィズダム教授の目が、突如として見開かれる。

その視線の先には、戦闘で偶然鍛えられ、異様に存在感を放つ彩花の筋肉があった。

「な……なんだその肉体は……!?」

教授の声が震える。まるで未知の実験体を発見した学者のように。

彼は一歩前に踏み出し、マントを広げた。

「そうか……君は筋肉社会の犠牲者だな! その筋肉は君の本質ではない!

 来い、知識の国ウィズダムへ! 我々は筋肉など求めぬ! ありのままの君を受け入れよう!」

その言葉に、彩花の心臓がドクンと跳ねる。

(……“ありのままの私”? 2年B組で、プリン大好きで……。もしかして、この人たちなら……私を“普通の女子高生”として見てくれるのかも……?)

ほんの一瞬、揺れ動く心。

だが――

「彩花!」

低く力強い声が響いた。

バルドだった。拳を握りしめ、筋肉を震わせながら前に出る。

「筋肉を……裏切るな!」

セラも目を閉じて祈るように告げる。

「神はその筋肉を選ばれたのです。背いてはなりません」

ジャックは苦笑しながらも短剣を構えた。

「……オレは彩花がどうしたいかだと思うけどさ。でも、この流れだと……裏切れねぇよな」

三者三様の反応に、彩花は頭を抱えた。

「えぇぇぇぇ!? なんで私、こんな“筋肉の分岐点”みたいになってんのぉぉ!!!」

スキニーウィズダム教授は、玉座の間のように荘厳な雰囲気の中、両手を広げた。

声高らかに、延々と続く演説が始まる。

「筋肉社会など愚かの極み! 筋繊維の肥大に頼るのは原始人の発想だ!

 知識こそが人類を導く羅針盤であり、魔法こそが進歩の証――!」

その言葉は滔々と流れ、止まる気配がない。

彩花は頭を抱えながら心の声を漏らす。

(……長い! ほんとに長い! ていうかこの人、絶対人に嫌われるタイプの教授だよ!)

だが次の瞬間――

「胸筋を見せろ!!!」

バルドの咆哮が、教授の演説を一刀両断した。

「……は?」

教授の顔がぽかんと固まる。

バルドは一歩前に出て、己の胸をドンと叩く。

「口先だけで筋肉を否定するな! 議論をする資格が欲しければ……胸筋を見せろ!!」

セラも祈りのポーズを取りながら頷く。

「確かに。筋肉を隠す者に、神の真理は語れません」

すると周囲にいた村人たちまでが拳を振り上げる。

「見せろ! 胸筋!」

「筋肉なき者に発言権なし!」

瞬く間にコールが会場を支配した。

「ちょ、ちょっと待て! 今はそういう話では――」

教授が慌てて弁明しようとするが、誰も聞いていない。

彩花は額を押さえ、半泣きで叫んだ。

「いやもう議論の余地ゼロじゃん!! これ、ディベートって何だったのぉぉ!!!」

重厚な扉が開き、壇上に現れたのは痩せ細った長身の男だった。

ひらひらと長いマントを翻し、いかにも「知識こそ至高」とでも言いたげな顔つきで、観衆を見下ろす。

スキニーウィズダム教授――その名を冠する通り、彼は「知識と論理の国」ウィズダム帝国の代弁者だ。

男は大仰に指を天に突き上げ、鼻にかかった声で響き渡るように宣言する。

「筋肉社会など、愚劣の極みである! 筋繊維に頼る生き方は、退化した原始人の証だ!」

会場がざわめく。

「真の文明とは知識と魔法! 論理こそが人類を導く! 筋肉にすがるのは妄信でしかない!」

その言葉は、確かに理屈としては筋が通っている。

だが、妙に高笑いを混ぜ、マントをばさばさと翻す姿は――どう見ても悪役ムーブだった。

彩花は小声で呻く。

「……いや、言ってることは正論っぽいのに……この人、完全に悪役ポジじゃん……」

壇上に立つ教授と、ポカンとした村人たち。

異様な空気が会場を支配し始めていた――。

スキニーウィズダム教授は、なおも壇上で声を張り上げていた。

「筋肉信仰こそが社会を腐らせ――」

その瞬間だった。

「胸筋を見せろ!!」

雷鳴のような声が響き、場の空気が一変する。

叫んだのは――筋肉至上戦士バルド。

会場全体が一瞬にして静まり返った。

教授は目を見開き、言葉を失う。

マントを翻したまま固まり、口から漏れたのは困惑そのものの一言だった。

「……は?」

観衆は息を飲み、静寂が支配する。

だがその沈黙は、次の瞬間に破られることになる――。

「胸筋を見せろ!!」

バルドの咆哮が木霊した瞬間、観衆のマッチョたちの瞳に火がともった。

「見せろ!胸筋!」

「筋肉なき者に発言権なし!」

そのコールが一人、二人と広がり、あっという間に会場全体を揺るがす大合唱へと変わっていく。

冒険者たちは胸を叩き、筋肉を隆起させ、村人たちまでもが意味不明なポージングを披露し始めた。

腕をクロスして大胸筋を強調する者、上腕二頭筋を隆起させて歓声を上げる者。

「……ちょ、今はそういう話ではない!」

スキニーウィズダム教授が必死に声を張る。だが、その言葉はマッチョの波に飲まれ、かき消される。

「見せろ!胸筋! 見せろ!胸筋!」

まるで異様な祭りのように、会場全体が筋肉コールに包まれていた。

彩花はこめかみを押さえながら心の中で絶叫する。

(いやもう……議論する気ゼロじゃんこれぇぇぇぇ!!)

「胸筋を見せろ!!」

バルドの咆哮が、広場の空気を切り裂いた。

その一言に呼応するように、村人や冒険者たちが次々と立ち上がる。

「見せろ!胸筋!」

「筋肉なき者に発言権なし!」

声はやがて大合唱となり、地鳴りのように響き渡った。

筋骨隆々の男たちが胸を叩き、筋肉を隆起させてポーズを決める。

屈強な女たちも負けじと大胸筋を強調するように腕を広げ、老人ですら「まだ見せられる筋肉がここにある!」と叫びながら服を脱ごうとする始末。

「ま、待て! 今はそういう話ではない!」

壇上のスキニーウィズダム教授が慌てて声を張り上げるが、群衆の熱狂に完全にかき消される。

「見せろ!胸筋! 見せろ!胸筋!」

まるで祭りの掛け声のように、広場全体が筋肉コールで揺れ動いていた。

彩花は顔を覆い、心の中で絶叫する。

(いやもう! これ、議論とかそういう次元じゃないでしょおぉぉぉ!?)

広場を揺るがす「胸筋コール」の嵐。

その光景を見ていた彩花は、頭を抱えながら心の中で悲鳴をあげた。

(いやいや! これディベートとか討論の場でしょ!? なんで筋肉見せ大会にすり替わってるのよぉぉ!!)

しかも追い打ちをかけるように、セラが真顔で手を胸に当て、静かに宣告する。

「筋肉を示さぬ者に……神の真理は語れません」

「お前までぇぇぇぇ!?!?」

彩花がツッコむのも虚しく、群衆は依然として「見せろ!胸筋!」コールで大盛り上がり。

壇上のスキニーウィズダム教授は額に青筋を浮かべ、痩せた身体を小刻みに震わせていた。

「……ば、馬鹿げている……! 知性の輝きを、この筋肉の亡者どもに示してやる……!」

怒りににじむその声も、熱狂するマッチョたちにかき消されていく。

彩花は空を仰ぎ、半泣きで叫んだ。

「もうダメだぁぁぁ!! この国、まともに議論する気ゼロなんだよぉぉぉ!!!」

広場に響き渡るマッチョたちの大合唱。

「見せろ!胸筋!」「筋肉なき者に発言権なし!」

壇上のスキニーウィズダム教授は必死に両手を振り上げ、声を張り上げた。

「違う! 私は知識を! 論理を説いているのだ!!」

だが、誰も聞いていない。

むしろ周囲のマッチョたちは胸を叩き、ポージングを取りながらさらにコールを加速させていく。

彩花は頭を抱え、天を仰いで絶叫した。

「いやもう! 議論の余地ゼロじゃん!!」

こうして、知識と筋肉の討論は――開始わずか数分で「胸筋を見せるか否か」という謎の審判にすり替わってしまったのだった。


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