筋肉を恐れる必要はない
村の案内人に連れられ、彩花は広場の真ん中に立っていた。
木造の掲示板には筋肉隆々の男たちの絵が並び、横には「今月のベンチプレスランキング」と書かれている。
「ここはマッチョルディア王国。ここでは筋肉こそが全てだ」
案内人の低い声が響く。
「……筋肉が……全て?」
「そうだ。王族も貴族も、ベンチプレスで何キロ上げられるかで序列が決まる。
千年の歴史ある家柄でも、100キロも上がらぬ者は犬同然よ」
彩花「えぇぇ!? 出世試験じゃなくて、筋トレ試験!?」
「宗教も同じだ。神殿にはバーベルが祀られ、祈りの言葉は――『今日も筋肉を鍛えよ』」
彩花「説法がジムインストラクター寄り!?!?」
「経済も筋肉を中心に回っている。市場では鶏胸肉とプロテインが通貨代わりだ」
彩花「いやいやいや! 円とかドルとか金貨とかじゃなくて!? プロテインで買い物!?!?」
「恋愛も筋肉。告白の言葉は『一緒にジム行こう』だ」
彩花「ロマンチックゼロぉぉ!! ていうかデート先がジム固定ってどうなの!?」
案内人は真剣そのもので説明を終える。
彩花は天を仰ぎ、がっくりと肩を落とした。
「ここ……完全に筋肉原理主義国家じゃん……」
甘いスイーツに囲まれていた普通の女子高生の世界は、跡形もなく崩れ去ったのだった。
村の食堂で「ケーキありますか?」と聞いて白い目を浴びた彩花は、泣きそうになりながら外へ飛び出した。
「うぅ……なんでスイーツ好きってだけで異端扱いなのよぉ……」
そんな彼女の前に、影が差す。
見上げると、そこには身の丈二メートルを超える巨漢の戦士が立っていた。
分厚い胸板に鎧をまとい、腕は丸太のように太い。
「……お前さん、面白い筋肉をしているな」
「え? 筋肉?? いや私、ただの女子高生で……」
男は腕を組み、じっと彩花を見据える。
その眼差しは鋭いが、どこか優しさを秘めていた。
「俺の名はバルド。戦士だ。口癖みたいなもんだが……言わせてもらうぜ」
彼はニッと笑い、胸を張った。
「筋肉は裏切らない!」
「えぇぇぇ!? なにその熱血スローガン!?」
「お前の身体には、とんでもないポテンシャルが眠っている。
筋肉を恐れる必要はない。受け入れろ、鍛えろ、そして誇れ。
……俺と共に来い」
「え、ちょ、待って!? 私、スイーツ追い求めてただけなんだけど!?!?」
慌てふためく彩花に、バルドは豪快に笑った。
その笑い声は、まるで雷鳴のように村中に響き渡った。




