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筋肉至上異世界「マッチョルディア」  作者: 南蛇井


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2/12

異世界筋肉ライフ

――ひんやりとした風が頬を撫でた。

「……ん……?」

彩花はゆっくりと目を開けた。

視界に広がるのは、青く澄み渡る空。耳に届くのは小鳥のさえずりと草原を渡る風の音。

「え……なにこれ……外?」

寝ぼけた頭で状況を理解しようとするが、現実感がまるでない。

コンビニの床に倒れていたはずなのに、どうしてこんな自然の真ん中に……?

「夢……だよね? きっと夢。だって草原とか、漫画の中でしか見ないし……」

そう自分に言い聞かせながら、彩花は体を起こそうとした。

その瞬間――。

「……んぐっ!? な、なにこれ……体が……重い……」

全身にズシリとのしかかる異様な重量感。

肩がずっしり、背中もバキバキ。起き上がるだけで、筋肉が軋むような感覚が走る。

「え、ちょっと待って……なんか……私の体、分厚くない!?」

目を丸くして自分の胸や腕を触る彩花。

ぷにぷに柔らかかったはずの女子高生ボディは、まるでコンクリートのように硬く、厚みがあった。

重たい身体をなんとか起き上がった彩花は、目の前に広がる光景に固まった。

「……え?」

そこにあったのは――巨大で毛細血管まで浮き上がった、分厚い腕。

まるでプロレスラーどころか、ジャングルのゴリラと見紛うほどの太さと迫力。

「な、何このゴリラ腕!? え、私いつの間に筋トレ勢になってんの!?

 昨日まで握力20もなかったのに!? 鉄棒すら逆上がりできなかったのにぃぃぃ!!」

慌てて指先を凝視する。

だがそこにあるのは、ネイルアートどころか分厚く硬い爪。

指も1本1本がソーセージのように太く、まるで女子高生の華奢な手とは別世界のものだった。

「ちょっと待って!? 爪にネイルしてない!

 てか指まで太すぎるんですけどぉぉぉ!!」

絶叫とともに、思わず拳を握りしめる。

――ゴツッ。

硬い岩を殴ったような重い音が響く。

彩花はビクッと肩を震わせ、恐る恐る自分の拳を見下ろした。

「……骨ばった女子の手じゃない……完全に“武器”じゃん……」

草原の静寂の中、彩花の悲鳴だけが空しくこだましていった。

「……ま、まさか……顔は……無事だよね?」

腕だけがゴリラ化していると信じたい一心で、彩花は恐る恐る近くの水たまりへとにじり寄った。

透明な水面に、自分の顔が映り込む。

「……うそ、でしょ……」

そこにいたのは、昨日までの制服姿の女子高生ではなかった。

分厚い顎には立派な髭が生え、目はギラつき、眉は太く、鼻筋はゴツゴツ。

さらに首から肩にかけての筋肉が盛り上がりすぎて、顔全体が小さく見えるほど。

完全無欠の――筋肉モリモリの大男。

「いやいやいやいや! これ私じゃないからぁぁぁぁ!!」

彩花の絶叫が草原に響き渡る。

驚いた鳥たちが一斉にバサバサと飛び立ち、青空の下に舞い上がった。

取り残された彩花は、水面に映る“髭ダルマの大男”を前にガクガク震えるしかなかった。

「……セーラー服どころか……女子高生要素、一ミリも残ってないじゃん……」

虚しい嘆きが、広大な草原に吸い込まれていった。

水たまりに映る大男の顔から目を逸らし、彩花はようやく自分の服装に気づいた。

光を反射する分厚い金属。肩から腰までを覆う鎧。膝当てまでご丁寧についている。

「……え、なにこれ。ちょっと待って、スカートは!?

 セーラー服返してぇぇぇ!!」

ガチャガチャと金属の音を鳴らしながら必死に裾を探すが、当然、ふわりと広がる布なんて存在しない。

代わりにあるのは、重量感たっぷりの鎧とごついブーツだけ。

「ちょっとこれ……歩きにくいんだけど!? ジャージのほうがまだマシだし!

 いや、体育のジャージより最悪ぅぅぅ!」

ヨロヨロと一歩踏み出すたび、鎧はガチャリと嫌な音を立てる。

まるで金属工場が歩いているかのような存在感。

「はぁ……女子高生から、なんでいきなりフルプレート戦士なのよぉ……!」

草原の風が吹き抜ける中、彩花の嘆きは鎧の反響音に混じって虚しく広がっていった。

「……と、とにかく落ち着け、私。夢かもしれないし……一回歩いてみよ……」

深呼吸で気持ちを落ち着けながら、彩花は草原の中へと足を踏み出した。

――ドシン。

「……え?」

一歩進んだだけで、大地が震えたような低音が響く。

さらに周囲の草は、まるで竜巻にでも吹かれたかのようにバサッと倒れ込む。

「ちょ、ちょっと待って……私、ただ歩いただけだよね!?」

慌ててもう一歩。

――ドシンッ。

再び地響き。小動物たちが一斉に逃げ出していく。

その光景を見た彩花は、顔を引きつらせながら膝をガクガク震わせた。

「うわぁ……これ、完全にモンスター側じゃん……!

 誰がどう見ても“人類の敵”ポジションじゃん……!!」

泣きそうになりながらも、前へ進むしかない。

こうして、元女子高生・彩花の――

異世界筋肉ライフが、ここから幕を開けるのだった。


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