結末と新たな日常
夜の静寂を切り裂くように、遠くで崩れ落ちる古城の残響が響いていた。
ダークマッスル卿との死闘は終わり、辺りには冷たい風だけが残っている。
彩花は、荒い呼吸を整えながら夜空を仰いだ。満天の星々は、どこか現実味を帯びていない。
――結局、私は“女子高生”なのか、“マッチョ戦士”なのか……。
異世界に来てから、ずっとその答えを探してきた。でも、まだ見つからない。
そんな彩花の隣に、仲間たちが静かに歩み寄る。
バルドは分厚い腕を組み、焚き火のような声で言った。
「お前はお前だ、彩花。筋肉があるとかないとか、そんなことは関係ない」
ジャックは苦笑しつつ、火傷のように熱い戦場の空気を和ませる声で続ける。
「オレは……“彩花らしさ”があればいいと思う。強くても、甘いもん好きでもさ。それ全部ひっくるめて、お前だろ」
そして、セラが祈るように両手を胸に重ね、厳かな瞳で告げる。
「神は二つの道を与えました。力と優しさ。筋肉と少女。……両方を受け入れるのです」
三者三様の言葉が、彩花の心を少しずつ溶かしていく。
夜空の星々が、まるで彼女の答えを待っているかのように、瞬いていた。
崩れ落ちた古城の瓦礫を背に、彩花は小さく息を吐いた。
頬に残る涙を指で拭い、ぎゅっと拳を握る。
「……うん、わかった」
夜空を見上げながら、震える声で続ける。
「私は、2年B組の女子高生でも……マッチョ戦士でも……どっちも私なんだ」
その瞬間、彼女の全身を覆っていた黄金の筋肉光がふっと消えた。
代わりに、柔らかく温かなオーラが彩花を包み込む。
まるで、力と優しさの両方が調和した証のように。
その姿を目の当たりにした村人や冒険者たちは、一斉に感嘆の声を上げた。
「なんという……! 力と優しさ、両方あってこそ真の筋肉!」
「筋繊維だけでは足りない……心こそが筋肉を完成させるのだ!」
「筋肉に新たな境地が開かれた!」
歓声の渦に包まれながらも、彩花は小さく笑う。
――ようやく、胸の奥の迷いが晴れた気がした。
戦乱の風がようやく止んだ。
マッチョルディアの筋肉議会と、ウィズダム帝国の知識評議会が、同じ円卓を囲んでいる。
その中央に立つのは、異世界から来た女子高生――彩花。
「筋肉も、知識も……どちらも人を救うためにある。争うんじゃなくて、支え合えばいいんです」
静かな言葉だった。
けれど、その声には確かな力が宿っていた。
バルドが腕を組み、「ふむ……筋肉の奥に知恵を宿す、か。悪くない」と頷く。
一方、スキニーウィズダム教授も眼鏡を押し上げ、「知識の根幹に、肉体の信頼を置く……論理的だ」と渋々同意。
そして――両国の間に和平の光が差し込んだ。
しかし、喜びの声を上げる村人たちは、やはりどこかズレていた。
「筋肉の時代に知識を添えるとは……まるで鶏胸肉にレモンを搾ったような清涼感!」
「なるほど、知識はタンパク質の吸収効率を高めるのか!」
彩花(心の声)「いや例えのセンスおかしいから!!!」
笑いと安堵の入り混じる空気の中、
彼女はようやく――自分の場所を見つけた気がした。
マッチョルディアの空に、穏やかな風が吹いていた。
戦乱は終わり、彩花たちは久々に故郷の村へと帰還する。
道の両脇には笑顔の村人たちがずらりと並び、手を振って出迎えた。
「おかえりー!」
「英雄たちが戻ったぞ!」
その温かい声に、彩花は胸がじんわりと熱くなる。
――ああ、やっと帰ってきたんだ。
だが次の瞬間。
村人Bが満面の笑みで叫んだ。
「で、今日のベンチプレス記録は!?」
ピキッ。
彩花の笑顔が一瞬で引きつる。
「……戦争終わらせて帰ってきたのに、第一声それぇぇぇぇ!?!?」
バルドは豪快に笑いながら肩を叩く。
「ははは! 村の平和が戻った証拠だな!」
セラは微笑んで、「筋肉が語る日常……尊いです」と神妙に頷く。
ジャックもニヤリと笑い、「もうこの国、筋肉抜きじゃ生きてけねぇな」とぼやく。
彩花は大きくため息をつきながらも、
どこか嬉しそうに笑った。
「……もう、しょうがないな、この世界」
笑い声が青空に響き、
筋肉と平和に満ちた日常が――再び、始まった。
夜の静寂が、村全体を包み込んでいた。
戦いの痕跡も、怒号も、今はもうどこにもない。
焚き火の残り火がぱちぱちと音を立て、空には無数の星々がきらめいている。
彩花はひとり、丘の上に座って夜空を見上げた。
そっと胸に手を当て、深く息を吸う。
(……異世界で“筋肉女子高生”になった私。まだまだ迷うこともあるけど……)
頬を撫でる風は、優しく温かい。
隣ではバルドたちの笑い声が響き、遠くの家々からは平和な歌が聞こえる。
(筋肉とプリン、両方を愛して生きていけばいいんだ)
そう心に呟き、彩花は小さく笑った。
彼女の瞳に映る星は、どこかダンベルのように輝いて見える。
――筋肉と笑い、そして少しの甘さを胸に。
女子高生・彩花の新しい日常が、今、静かに動き出した。
《筋肉よ、永遠に。》




