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筋肉至上異世界「マッチョルディア」  作者: 南蛇井


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ダークマッスル卿との対決

村の広場にざわめきが走った。

旅の行商人が血相を変えて駆け込み、息を切らしながら叫ぶ。

「北方の古城に……恐ろしい存在が現れた! その名は……ダークマッスル卿!」

その言葉に村人たちが一斉に青ざめ、筋肉信奉者の老人ですら肩を震わせる。

「ダーク……マッスル……?」

彩花は思わず聞き返し、こめかみを押さえた。

「名前からして絶対ヤバいじゃん! どう考えてもボスキャラポジションだよこれ!」

バルドは静かに拳を握りしめ、目を閉じる。

「真の筋肉とは何か……今こそ見極める時が来た」

その横顔はやけに神妙で、焚き火に照らされる筋肉の陰影まで劇的だった。

彩花は心の中で叫ぶ。

(いやいや、そんな悟った顔しないで! なんで世界の命運が筋肉で決まる流れになってんのよぉぉ!)

古城の広間。

崩れた柱の影から、重低音のような足音が響いた。

――ドン……ドン……ドン……!

現れたのは、漆黒の鎧をまとった巨躯。

しかし鎧の隙間から覗く肉体は、異常なほど肥大化していた。

大胸筋はまるで岩山のようにせり出し、腕の血管は蛇のように脈打ち、鼓動に合わせて石壁が震える。

「俺は……ダークマッスル卿!」

その声は轟き渡り、瓦礫を崩す。

「筋肉に選ばれし者……いや、俺は筋肉そのものだッ!!」

バルドが息を呑み、セラは祈りの言葉を失い、ジャックすら後ずさる。

ただ一人、彩花だけが頭を抱えていた。

(いやいや!! これ絶対、ただのステロイド副作用でしょこれぇぇ!! 医療案件だから! 筋肉じゃなくて病院行ってぇぇ!!)

瓦礫の舞う古城の広間に、轟音が走った。

ダークマッスル卿が、ただ片腕を振り下ろしただけで――

空気が爆ぜ、石畳がひび割れ、衝撃波が奔流のように押し寄せてきた。

「ぬおおおおおっ!!!」

バルドが拳を振り上げ、その圧を真正面から受け止める。

筋肉と筋肉がぶつかり合い、空気が爆裂音を立てて弾けた。

「筋肉は誇りだ!!!」

隣ではセラが両手を組み、必死に祈りを捧げる。

「筋肉よ! 神の秩序を取り戻せ!」

光のオーラが仲間を包み、辛うじて押し返す。

ジャックは片隅で小声を漏らした。

「……オレ、細マッチョでいいからな。こういうの求めてねぇよ……」

そう言いながらも短剣を投げ、衝撃波の軌道を逸らす。

そして――

その圧倒的な筋力の奔流を前に、彩花は思わず足を止めた。

(やば……! 私の“規格外”の筋肉でも、あれに勝てるの……!?)

心臓が跳ねる。

けれど、彼女は震える拳をゆっくりと構えた。

「……私だって……女子高生だけど、仲間を守るためなら戦うんだからぁぁ!!!」

古城の瓦礫の上で、ダークマッスル卿が不気味に笑った。

「筋肉は力だ……! 力はすなわち支配! 弱き者を従わせ、世界を握るためにあるッ!!!」

その咆哮に合わせ、膨張した筋繊維がさらにうねり、血管が蛇のように脈打つ。

圧倒的な威圧感に、空気すら震えた。

だが――彩花は、ぐっと足を踏みしめる。

両手を強く握り、声を張り上げた。

「違うっ!!」

驚いたように卿の赤黒い瞳が細められる。

「筋肉は……仲間を守るためのものなんだ!!!

誰かを押しつけたり、支配するための道具じゃない!!!」

その瞬間、彩花の全身が熱を帯びた。

心臓がドクンと脈打つたびに、筋肉が黄金の光を放ち――

全身を包むオーラが火柱のように燃え上がる。

「なっ……!?」

ダークマッスル卿が一歩退く。

「――行くよ!」

彩花のシルエットが、焔のように輝く。

それは“真・女子高生マッスルモード”。

二年B組の名を背負った、異世界最強の“守る筋肉”の覚醒だった。

瓦礫が飛び交い、光と筋肉がぶつかり合う決戦のさなか――

突如、ダークマッスル卿が動きを止めた。

「……あれ? ……ない……? お、俺の……シェイカー……!」

巨体を震わせ、キョロキョロと周囲を見回す。

「さっきまでここに……俺、プロテイン溶かしたのにぃぃぃ!!! どこいったああああ!!!」

戦場に、妙な沈黙が落ちた。

バルド「…………」

セラ「…………」

ジャック「…………」

そして、彩花が絶叫する。

「決戦中にプロテイン探すなぁぁぁぁぁ!!! バトルより大事な栄養補給って何よぉぉぉ!!!」

ジャックがため息をつきながら、ぼそりと呟く。

「……ある意味で、筋肉へのブレない信仰だよな」

セラは小声で「神の御業にシェイカーは必要なのか……」と真剣に悩み始め――

戦場の空気は、一瞬だけ修学旅行の休憩時間のようにゆるんだのだった。

ダークマッスル卿の拳と、彩花の黄金に輝く拳が正面からぶつかり合う。

轟音と衝撃が古城を揺るがし、崩れかけた天井から石片が降り注ぐ。

「これで……終わりぃぃぃ!!!」

彩花が渾身の一撃を放ち、黄金の閃光が卿の全身を包み込む。

巨体がよろめき、ダークマッスル卿は膝をついた。

膨張しすぎた筋肉がしぼむように収まっていき、その顔にわずかな安らぎが戻る。

「……筋肉は……守るために……あったのか……」

その言葉を残し、彼は崩れ落ちた。

バルドがゆっくりと目を閉じ、低く呟く。

「ようやく理解したか……筋肉の本懐を」

彩花は胸を押さえ、震える息を吐きながら仲間たちを見回す。

「……やっとわかったよ。筋肉って……私のアイデンティティじゃなくて……“絆”なんだ」

その言葉に、セラは涙ぐみ、ジャックは少し照れくさそうに笑い、バルドは力強く頷いた。

戦場に、静かな勝利の余韻が広がっていく。

瓦礫に沈み、瀕死のダークマッスル卿がかすかな声を漏らす。

「……筋肉は……絆……そして……」

仲間たちが息をのむ。壮大な遺言かと思われた、その次の瞬間――

「……やっぱり……俺のシェイカー……どこ……」

場の空気が一瞬で凍りつき、次いで彩花の絶叫が炸裂した。

「最後までそれぇぇぇぇぇ!!!」

バルドは「……一途なのは悪くない」と真剣に頷き、

ジャックは「いや、そこ感心するとこじゃねぇだろ」と突っ込み、

セラは祈るように「シェイカーに神の加護を……」と呟く。

夜風が吹き抜ける古城に、壮大な決戦のオチとしてはあまりにも情けない響きが残った。



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